第7話 迷いの森だからそうなる
半日かけてたどり着いた迷いの森の前でステラはいったん立ち止まる。
「この道であってるのよね」
「お、おう」
す巻きにしたツェルトに確認を求め、頷きが返ってくるのを見る。それから一呼吸して、迷いの森へと足を踏み入れた。
「そろそろこのグルグル解いてくんね?」
「私が着替えてる間に一人でこっそり行こうとした罰よ。怖いとか言ってたくせに」
ヨシュアが見つけなきゃ危うく置いていかれる所だったではないか。
「本当にここは危険なんだ。だから、ステラには来てほしくなかったのに」
「はいはい。もうこれ解いてあげるから。すねないの」
「すねてるわけじゃないんだけどなぁ……」
す巻きを解きツェルトを自由にしてやる、納得しかねる様子の彼だが反論は諦めたようで、大人しくなり二人で奥へと進む事になった。
「暗いわね」
「お化けが出るかもな」
「……こ、怖くないわよ、子供じゃるまいし」
「俺達まだ子供じゃなかったっけ」
「ち、小さな子供じゃあるまいし」
ここで怖いなんて認めたらお姉さんぶって付いてきた自分の立場がなくなるので、必死に取り繕った。その労力が功を成しているかどうかは置いといて。
人の言葉の揚げ足を取ってくるツェルトに言い返しながらも、周囲への警戒を怠らず先へ先へと進んでいく。
進めば進むほど森は鬱蒼として薄暗くなっていった。
「薬って薬草……植物なんでしょ。どんな特徴なの?」
「植物だ。土に生えてて緑色してる」
「今はそういうのいいから」
植物なら大体が土に生えてるし緑色だろう。
普段の調子が戻ってきたらしく、ふざけ始めた彼をたしなめる。
あらためて特徴を聞きだすとその植物は……。
宝石みたいに透き通ってて、光を放つ。
というのが特徴らしい。
「それであってるの?」
「うちの村の共通認識だ。あってるあってる」
ほんとだろうか。
今度のは逆に植物らしからぬ特徴だったが、時間がないし、こんな時にツェルトが嘘をつく理由は無い。その言葉を信じる事にした。
もしもの場合……、ツェルトの頭が想像以上に残念で記憶違いだった場合などは、諦めるしかないが。
だんだん不安になってきた。ツェルト、大丈夫よね?
そんな事を考えながら歩いていると、ふと妙な事に気付いた。
「ここ、さっきも通った?」
今歩いたこの道は、確かに一度通った道だ。
「これ見て。この木……ちょっと前も見たわよね」
ステラ一本の木を指し示す。他の木と違って割と太い枝が二、三本折れており、特徴的だったのでよく覚えていたのだ。
「やべ、迷った」
「ぐ……、偶然よ」
ツェルトの強張った表情を見て、考えすぎかもしれないと言う。
たまたま似たような木がそこにあっただけかもしれないし。
気を取り直して再び先へ進むのだが、しかし目の前に現実が突き付けられた。
「嘘……、本当に?」
「まずいな」
迷いの森はやはり「迷いの」と付くくくらいで、とても半端なくまずい場所らしい。
行けども行けども景色が同じで変わらない。
どれだけ行ってもどれだけ歩いても、だ。
つまり二人は迷子になってしまっていたのだ。
「……どうしよう。私がちゃんと貴方の意見を聞いていれば」
話半分に聞き流してしまった事を申し訳なく思う。
もっとちゃんと考えるべきだった。
知らず立ち止まっていたステラだが、その手をツェルトが引いて歩かせる。
「まだここから出れないって、決まったわけじゃないだろ」
「でも……」
「行こうぜ。ここでじっとしてるよりは動いてた方がいい」
なおも浮かない表情をしているステラにツェルトは重ねて言う。
「何とかなる。大丈夫だ。人生だって、迷って迷って迷いまくっても、本人の気持ちなんて構わず進んじまうだろ。それと同じで何とかなる」
比較する対象がおかしいような気がするし、子供が言っても説得力ないのだけれど……。
でも、少しだけ気が楽になった。
「そうね。もうちょっと頑張りましょう」
ステラは彼にとられた手に力を入れ、こちらからも少しだけ握り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます