第17話 強さじゃ解決できない問題
ニオや他の友達も増えて半年が経った。
学校生活は順調で、剣の実力もかなり伸びた。当初憂慮していた、イジメのイの字も出てこない平穏な日常だったが、やはりというかそのまま続くものではなかった。問題が起きたのだ。
最近ステラは頻繁にとある人物に声をかけられているのだ。
「ステラさん、放課後一緒にどうかな」
「何か話でも? 少しだけなら構わないけれど」
相手は同じクラスの男子生徒で、話の内容は悪意のあるようなものではない。
それゆえに最初は断ることなく付きあうこともあったのだが……。
「ステラ、奇遇だね。今帰る所かい? 一緒に帰らないか」
「悪いけど遠慮しておくわ」
一週間も過ぎると急に態度が馴れ馴れしくなり、誘いがしつこかったりしてきて困っていた。
「何か心配事があったら僕に相談するといい。力になるよ」
「その心遣いだけで十分よ」
「そんな事言わずに、言いふらしたりしないよ」
「別にそんな風には考えてないわ、友達に呼ばれているみたいだから失礼させてもらうわ」
そう、困っている。
とても困っているのだ。
どうすればいいか分からない。
なのでステラは、呼んでくれた友達にさっそく相談を持ちかけた。
教室の中、自分の机に突っ伏してやり忘れた宿題と格闘している最中で、ものすごく助けが欲しそうな目をしていた彼女に。
「ねぇニオ、これってストーカーなのかしら」
「ストーカー?」
「それ手伝うから、ちょっと相談に乗ってくれない?」
困った時はお互い様だ。
午前の授業を終えたばかりの時間。食堂に移動してニオにもっと突っ込んだ話を聞かせる。
「ストーカーってうのは、一人の人物にしつこく付きまとってくる人の事よ。私ちょっと困ってるの」
「うーん、その言葉はよく分からないけど、ステラちゃんが困ってるのは分かるよ。クラスでもよく見るし」
ストーカーなる人物に声をかけられる度に、ステラからアイコンタクトを送られ助け舟を出しているニオ。なので、気付いてない事はないだろうと思い、相談に踏み切ったのだ。
「どうすればいいと思う? 一度きつく言った方がいいかしら」
「でも、相手はステラちゃんに悪さしてるわけじゃないんだよね」
「そうなのよね」
目に見えて、嫌なことをされたり言われたりすれば分かりやすくていいが。
これはうわべだけ見れば善意の行動なのだ。
良かれと思ってやったことなのに、とでも反論されたら面倒なことになるのは目に見えていた。
「視線がね。なんて言うか、粘着っていうか、粘っこいのよ。いつまでもずっと追いかけてきてるって言うか。殺気とはまた別の不愉快な感じで、それがしょっちゅうするの。こういうのが長く続くのはちょっと……」
「え、ステラちゃん殺気なんか分かるの?」
もうすこし突っ込んで話してみればニオには別の個所に驚かれた。
「もうちょっと様子を見てみて駄目だったらまた考えよ? ひょっとしたら取りつく島もないステラちゃんの態度でその内、気が変わるかもしれないし」
「……そうね」
そうだったらいいんだけど。
もしそうじゃなかったら。胸中にある一抹の不安が拭い切れないのだ。
剣技はそれなりに上達してる自信はあるしそこらにいる並の敵なら倒せる自信はあるけど、こういう怖さと敵の怖さはまた別物なのだ。
「不安ならツェルト君にくっ付いててもらえばいいんじゃないの?」
「それは駄目よ。何だか最近忙しそうだし、こんな事ぐらい自分でどうにか出来なきゃ、強くなんてなれないわ」
「いやぁ、そんなところまで強くなろうとしなくてもいいんじゃないかなぁ」
そういうワケにはいかない。ちゃんと精神的に強くなっておかないと、自分があの悪役のような事をしでかさないか不安なのだ。
本当はニオに相談するのも躊躇ったりしたけど、こういうのに対しては情報がまったくなかったから仕方ない。
戦いを有利に進めるためにはまず正確な情報を得なければならない。それは、三年前の迷いの森に行った時に学んだ事だし。
とりあえずは様子見で我慢。という方針に決めた三日後の事だった。
事件が起きたのは。
ステラは名前のない不審な手紙によって校舎裏に呼びだされた。
目的の場所に着くやいなや、どこからともなくやって来た素行の悪そうな男達に囲まれる。制服を着ているので、どこぞの夜盗などが紛れ込んだわけではないと分かるのだが……。
「人と待ち合わせしてるのだけど、何か用かしら」
「へぇ、こんな女がいたのか。顔もいいし、良い体つきしてんじゃねーか」
こういう人たちって、自分本意な事しか言えないのだろうか、と思う。
一応第三者の可能性を考えて声をかけてみたのだが、無駄な労力を使ったらしい。
やってきた男たちはステラを値踏みするような視線で眺めてくる。
「ひゃはは、早くやることやっちまおうぜ、プライド高そうな面踏みにじってよぉ」
「地面に這いつくばらせて、その綺麗な顔を屈辱に染めてやりてぇな」
「まあ、まてお前ら。おい女、何か俺らに言う残すことはねぇか。聞いてやらない事もないぜ」
鼻息を荒くして興奮しだす男たちを制止して、リーダー格らしい男がステラに問いかける。
寛大な態度というものを演出しているのかどうか分からないが、それは嘘だろう。
「まったく……。貴方達、後悔しても知らないわよ」
だが怯えるでも、泣きだすでもないステラの様子に男たちは一瞬呆気にとられたような表情になった。
「そりゃこっちのセリフだ。悪く思うなよ。恨むんなら、俺らにこんな事を依頼した男を恨むんだな」
それを男は強がりと解釈したようだ。薄笑いの表情を浮かべながら気にとめずにステラに手を伸ばしてくる。
ステラは冷静にそれを眺め、さてこの不埒な連中をどう料理してやろうかと考えていた。
「待て」
一瞬ツェルトが来たのかと思った。だけど、違った。
例のストーカーだった。
「か弱い女子を大勢で囲んでよからぬことをしようとは何と卑劣な、成敗してくれる」
「あ、結構です」
「「「「えぇっ!」」」」
意気込む乱入者だったがステラが断りの言葉を入れれば、例の男だけではなく囲んでいる男達まで驚いた。
「これくらい私一人で何とでもできるわ。余計な手出しは結構よ」
ステラはため息を押し殺した。
助太刀に入るタイミングが絶妙すぎる。
これは結末の用意された茶番なのだろう。
ここでこの男に借りを作ったら後でどんなしっぺ返しをくらうか、分かったものではない。
試みは失敗だ。
返ってこの状況がステラにストーカーの本性を曝し出してしまったのだ。
しかし残念だ。
こんなわざとらしいことしなければ、苦手に思いこそすれまだ嫌わずにはいたというのに。
「来るなら、来なさい。まさか女子一人に怖気づいて逃げだすような臆病者ではないでしょう?」
数秒後。
ステラはストーカーへの宣言通り、一人で男たちを無力化し、開いた口が塞がらないと言った例の彼を置いて、さっさとその場を立ち去った。
この後に及んで手紙の主が別にいるかもしれないなどとはさすがに思っていない。
その場に残される形となった駆けつけたその男は、表情を歪めて歯ぎしりする。
「この僕が声をかけてやって、構ってやっているというのに……。他の女の様にさっさとなびけばいいものを。くっ……、少しばかり手荒く扱わねばならないようだな」
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