暁に咲く(五)
「
「わたしは会いたくないんだけどなあ」
その気持ちはよくわかった。
「怒ってた」
「だろうね」
「すごく」
――見くびられたものですね。
そう文昌がつぶやいていたのは、
伯英どのさえいなければ、この城は簡単に
めずらしく笑みなどたたえていた文昌を、伯英はうすら寒そうな顔で眺め、こいつにはなるべく近寄らないほうがいいぞ、と子怜に耳打ちしてきた。その忠告にしたがって望楼に避難していたのに、むこうからやって来られたときは内心首をすくめたものである。
「はじめから、全部お見通しだった?」
「はっきりしたのは昨日」
それまでは、ただ変だなと思っていただけだ。はじめてこの男に会った日の晩、伯英から話を聞いたときから。
あのひと変だね、との子怜の感想に、そいつは同感だが、と前置きした上で伯英は尋ねてきた。なんでそう思う、と。べつにたいした理由はなかった。
――陳王討伐をお任せします。
官衙の堂で、この男はその呼称を用いたという。
変だと思った。都督の使者が、賊軍の首領を王と呼んだということが。そんな呼び方をするなと、昼間
子怜がそう説明すると、伯英はかるく目を見張り、難しい顔をして考えこんだあとで、このことは誰にも言うなよ、とささやいた。
以後、伯英はこの男をひそかに監視していたらしい。だが、とりたてて不審な点は見つからなかったという。
ささやかな疑念は、昨日の軍議の席で確信に変わった。陳王
やはりこの男、あちら側の人間かと。
「ぼくが考えつくことに、あなたが気づかないわけないもの」
「ほめられている気がしないね。それで? むこうの船をお相手する策を考えたのも、きみかい」
「それは伯英」
敵船を阻むため江夏城の船を燃やすという戦法に、子怜はむしろ反対だった。
欲張りなのはどっちだと、子怜は思う。
「嚇玄の首は、ここでとるって」
「とれないよ」
さらりと朱圭は否定した。とれはしまい、でも、とらせてなるものか、でもない。ただ当たり前の事実を述べるように。
「あの男は、もう死んでるから」
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