純白に染む(四)

 りょうの建国から百五十余年。世は動乱の時代にさしかかっていた。


 まつりごとに無関心な皇帝のもとで廷臣は権力闘争にあけくれ、私欲にまみれた官吏は民をさいなんだ。圧政にたえかねた民は各地で蜂起し、統治のほころびに乗じて匪賊が横行した。


 相次ぐ反乱に対し、朝廷はひとつの方策を打ち出す。義勇軍を編成する、というものだった。


 義兵を募り、それを率いる者には官位と資金を与え、乱の鎮圧に向かわせるという方策は、梁の正規軍がもはやまともに機能していないことを公言するに等しかったが、狙いは悪くなかった。各地に誕生した義勇軍は、ひとつ、またひとつと乱を平定していき、その活躍ぶりは朝廷の目をみはらせるものがあった。



「……とまあ、これがおれたち王家軍おうかぐんのはじまりってわけさ。伯英はくえいの兄貴が旗をあげたときには、せいぜい二十人ぽっちの所帯だったのが、八年ばかしでどれだけ増えたと思う?」


 いい気分で語っていた迅風じんぷうだったが、そこではたと我に返った。


「おい」


 じろりと見おろした先で、敬愛してやまない兄貴分の恩人がかすかな寝息をたてていた。


「てめえ、こら!」


 額をひっぱたいてやると、少年はうすく目を開けた。


「……なに」

「なに、じゃねえっ! おまえ、おれの話聞いてなかったろ」

「聞いてた」

「嘘つけ。寝てたくせに」


 少年は小さく息を吐き、大義そうに身を起こした。危なっかしくゆれる身体を迅風が支えてやったところで、白い頰に一筋の髪が落ちかかり、少年はそれを煩わしげに指ではらう。ただそれだけの仕草が妙に艶めかしく見え、迅風はあわてて眼をそらした。まったく調子が狂う、と胸のうちで毒づきながら。


 麗々れいれいという名を聞いたとき、迅風は失笑するより先に怒りをおぼえた。年端もいかぬ少年に女の名をつけ、側にはべらせるなどという嗜好は、迅風にとっては嫌悪の対象でしかなかった。


 だいたい、いくら見た目が美しかろうと、同性の、しかも子ども相手によろめくなどあり得ない。そう憤っていた迅風だったが、いざその繊細な美貌を前にしたときは、思わず胸のうちでうなってしまった。こりゃよろめくのも無理はないかもしれん、と。


 迅風の複雑な心境を知ってか知らずか、少年は気だるげに立てた膝に頬杖をつき、あくびともため息ともつかぬ吐息をもらした。

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