君に捧ぐは花燈籠(七)
面をはぎとられたとき、目の前にいたのは見知らぬ男たちだった。
「上玉だぜ」
下卑た声と口笛。これには覚えがある。これから何をされるかも、だいたい予想はついていた。
さらわれたのは、ついさっきだ。座っていたところを突然背中から抱え上げられ、路地裏に連れこまれた。
膝から燈籠がすべり落ちた音に、離れたところにいた数人がぎょっとしたようにこちらを見たが、それだけだった。
当然だ。誰だって、面倒事に関わり合いたくはない。
――あ、
足もとに落ちた面を、暴漢の足が踏みつけた。あのひとが買ってくれた、獄卒の面。
「おとなしくしろよ」
してるじゃないか、と思ったが、声は出さなかった。口に布を詰められていたからだ。そんなことをしなくても、叫んだりしないのに。
自分を囲んでいる男たちは全部で三人。うち二人に両側から腕を押さえられ、一人が荒い息を吐きながらのしかかってきた。乱暴に衣をはがされたところで、ぴたりと男の手が止まった。
「げっ」
「どうした」
両側からのぞきこんできた二人も、めいめい短い悲鳴をあげた。
「うえ……」
「なんだこれ、気持ち
へえ、と少しばかり驚いた。こんな薄汚い男たちでも、自分の傷跡を見て醜いと感じるのかと。
「もったいねえな。これがなけりゃ、もっといい値がつくだろうに」
ということは、この男たちは自分をどこかに売り飛ばすつもりらしい。
――それは、
「おとなしくしろって言っただろ! このがき!」
頬を張られた。
「声がでけえぞ。ひとがきちまう」
「だってよ、このがきが」
「うるせえ。いいからさっさと済ませろよ。あとがつかえてんだから」
「わかってるって」
男はぶつくさこぼしながら、再び自分に覆いかぶさってきた、その時だった。
「てめえら何してやがる!」
ふっと体が軽くなった。自分の上にいた男が、誰かに襟首をつかまれて地面にたたきつけられたのだ。
「なっ……」
左右の男たちも、声をあげかけたところで顔面を蹴り飛ばされ、口から血と歯をまき散らしながら地べたに転がった。
あっという間に三人を片付けた男は、自分の前に勢いよくしゃがみこんだ。
「おまえ無事か! 怪我は! 何もされてないだろうな!」
質問が多すぎて何から答えればいいかわからず、黙っている間に体のあちこちを調べられた。
「よし!」
ひととおり体をあらためると、男は自分の腕をとって立たせた。
「無事だな。顔はまあ、なめときゃ治る」
さすがに顔はなめられない、と考えていると、ごつんと頭に拳がふってきた。
「この馬鹿!」
見あげると、鬼のような形相をした
「何やってんだよ! 馬鹿か、おまえは!」
「馬鹿はおまえだ」
突如割って入った低い声に、迅風はびくりと肩を震わせる。その肩越しに、ひやりとするような気配を漂わせた長身の男の姿が見えた。
「兄貴……」
「目を離すなって言っただろうが」
迅風を叱りつけながら、
「だって兄貴、目え離したって、ほんのちょっとだったんですよ。こいつだって声もあげねえで……見てたやつらも言ってましたよ。まるで暴れもしなかったって」
なあ、と迅風が顔をのぞきこんでくる。
「おまえもさ、なんでおれのこと呼ばなかったんだよ。すぐ近くにいたんだぜ」
返事に困って伯英を仰ぎ見るも、何も言ってもらえなかった。どうやら自分が答えなければならないらしい。
「……呼んで、どうなるの」
暗がりの中で、迅風がはっと目を見開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます