暁に咲く(三)
甲高い鐘の音を遠くに聞きながら、船団の指揮官は早くも勝利を確信していた。
いまこのとき、
灰色の城壁がせまる。岸辺には、江夏城の持ち物とおぼしき大型の船が三十隻ばかり並んでいた。噂に名高い王家軍とやらは、あれに乗って
ほくそ笑んだところで、指揮官はふと眉をひそめた。
河岸に面した城門から、十名ほどの兵が走り出てきたのだ。その手には、火のついた松明がにぎられている。
すでに夜は明けたというのに、と
「――とめろ!」
絶叫は、熱風にかき消された。
眼前に、炎の壁が出現していた。岸辺につながれていた船が、一斉に炎を吹き上げたのだった。
おそらく、船にはあらかじめ油か何かが仕込まれていたのだろう。そこに先ほどの兵が火をかけたのだ。轟々と燃えさかる火柱に、船団は自ら突き進んでいく形となった。
「とまれ! いや、もどせ! 船をもどせ!!」
命じられるまでもなく、各船は必死に向きを変えようとするも、密集した陣形が災いして思うように動けない。さらに後続の船にも押し出され、不運な船はひとつ、またひとつと炎にからめとられていく。
頃合いを見計らったように、城壁の上から矢が射かけられた。数百、数千の矢が死の雨となって江上に降りそそぐ。各処で悲鳴と叫声がはじけ、水面はたちまち赤く染まった。朝陽と炎、そして血の
火と矢の雨をかいくぐり、岸にたどりついた兵は、全軍のおよそ半数といったところだった。傷ついた身体を怒りと憎しみで奮い立たせ、小賢しい策を弄した敵に
地が震えた。
大地を轟かす馬蹄の響きに、猛々しい喚声がかさなる。驚愕と恐怖におののきつつ、西の地平を見やった兵は、曙光をあびてきらめく甲冑の光に眼を射抜かれた。
土を蹴立て、奔流のごとく押しよせる騎馬の一軍。その先陣で矛をふりかざす将の姿は、獲物に躍りかかる猛虎にも似ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます