純白に染む(七)
絶対誰にも言うんじゃねえぞ。そう前置きして
「今回のはさ、仇討ちだったんだよ」
八年前、
街が賊に蹂躙されていたとき、伯英は所用で隣県に出向いていた。用事を済ませて帰ってきた伯英を迎えたのは、焼け焦げた街と妻子の亡骸だった。
「子どもなんて、まだ三つかそこらだったっていうぜ」
我が事のように迅風は顔をしかめた。
伯英が義勇軍を立ち上げたのは、その半年後だった。迅風が加わったのは、それからさらに一年ほど後だったという。
「その賊が、
「いや、賊の頭目はもっと前に片付けてやったさ。辛の野郎はそんときの瑯の県令だったんだよ。やつめ、てめえんとこの城が襲われてるってのに、何もしやがらなかった。あいつが、兄貴の家族を見殺しにしやがったんだよ」
演習先で襲撃の報を受けた県令は、救援に向かうどころか、伝令を捕らえて事を伏せ、賊が去ってからようやく城に帰還した。凶悪さで知られるその野盗集団と正面からぶつかるのを恐れてのことだった。
「本当だったら八つ裂きにされるはずだったのに、あの野郎、上にさんざん賄賂をばらまいて無罪になりやがった。その後すぐに、やつは姿をくらましちまってさ。あのまま瑯にいたら、兄貴たちに殺されるってわかってたんだろうな」
元県令は名を変え、過去を偽り、くりかえし住まいを変えた。復讐者たちの追跡をふりきるために。
「そっからずっと、兄貴たちは辛を探していたんだ。狡賢いやつでよ、今まで何度も、捕まえかけちゃあ逃げられてのくりかえしでさ。でも、ついにやったんだ」
誇らしげに語っていた迅風は、そこで声をひそめた。
「けどよ、最初に言ったけど、このことは黙っとくんだぞ」
「なんで」
「いや……まあ、じつは、おれもそのへんはよくわかんねえんだけどよ、とにかく黙っとけって、
「だけど、もうばれてるんじゃないの?」
「そりゃそうだろうなあ。けど、表向きはそうじゃないことにするとかなんとか……ああもう」
迅風はいまいましそうに頭をふった。
「ごちゃごちゃうるせえよ。とにかく黙っとけったら黙っとけ」
「だったら話さなきゃよかったのに」
「馬鹿野郎」
頭にごつんと拳がふってきた。
「おまえだけ仲間はずれにしたら可哀想だっていう、おれの気持ちがわからんのか」
まったくもってわからなかった。迅風のやり口は、盗んだ餅を、そうと知らせず分けた後で「おまえも同罪」と宣告するようなものではないか。そう思ったが、また殴られるのもおもしろくないので口には出さなかった。
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