君に捧ぐは花燈籠(三)
「王都衛」
「おぬしは
「おだてても何も出ないぜ」
伯英は笑いに紛らわせようとしたが、永忠の表情は真剣だった。
「
だが、と永忠は語を継いだ。
「まだ、おぬしらがいるのだ」
永忠は伯英と文昌の顔を順番に見た。
「わしは、おぬしらに何も頼める立場ではない。おぬしらの身内が殺されたとき、わしは何もできなかった」
「ちょっと待った」
伯英は片手をあげて永忠の話をさえぎった。
「そのことを蒸し返すつもりなら、今すぐ帰ってくれ。あんたに責任がないことはおれも文昌もよく知っている」
八年前、まだ県丞ではなかった永忠だが、他の役人たちとともに賊に手足を縛られ堀に投げ込まれた。仲間の多くが溺れ死ぬなか、永忠が助かったのは僥倖と呼ぶしかない。
「いいや。梁の禄を
永忠は頑固に首を横にふった。
「だが、あえて頼む。どうか短気はおこさんでくれ。おぬしのような将が、王家軍が民には必要なのだ。梁を救ってくれとは言わん。だが、賊に追われる民を守ってやってくれんか。おぬしらの働きで命を拾う者がひとりでも増えれば、それでいい」
永忠はその額を卓にこすりつけんばかりに頭を下げた。
「県令どのはわしが抑える。趙都督のことも、なんとか穏便にすむよう策を練る。だから、どうか軽はずみなことはせんでほしい」
伯英はしばらく無言だったが、ややあって盛大なため息をついた。
「顔をあげてくれ、永忠どの。王家軍の旗揚げのときから散々世話になっているあんたに、そんな格好をされちゃたまらない」
それに、と伯英は頭をそらした。
「小遣いももらっちまったしなあ」
春の明るい陽射しが天井に施された彫刻文様に影をつくっている。今夜はよく晴れるだろう。あの養い子に祭りの
「とりあえず、あんたに任せる。そんで、おれたちはしばらくのんびりさせてもらうぜ。それでいいか?」
「ありがたい」
顔をあげた永忠は、ほっとしたように笑みをもらした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます