天川に星を逐う(六)
「やっぱり、そっちなんだ」
そう
「さてはおまえ、
「拗ねてない」
ただ、理解できないだけだ。この男が、あえて平坦ではないほうの道を選ぼうとしていることが。
「たしかにな、おまえの策、あれはあれで正解だ。先に
「なら……」
「けど、間違ってんだよ」
わけがわからず、子怜は眉根をよせた。
「おれたちは護民の軍だ。民を見捨てるなんて選択肢は、はなからない。まあ、そのへんは抜きにしても、おれが嫌なんだよ。意味もなく殺されるのも、奪われるのも……それを指をくわえて黙って見ているのも」
淡々と語る伯英の声は、灰の中の
「なにより、ここで
やつ、が誰を指すのか、訊かずとも子怜にはわかっていた。
「……でも、最後にたくさん残ってるほうがよくはないの?」
先にいくらか犠牲を払っても、いや、払ったがために、結果的に多くの
「……場合によるな」
伯英は天を仰いだ。群青の空にまたたく星よりも、なお遠くを見はるかすように。
「おまえには、まだ難しいか。なら、もっとわかりやすく言ってやる」
子怜の顔に視線をもどし、伯英は目もとをゆるめた。
「おまえを死なせたくない」
「だから行く。どうだ、これ以上ない理由だろう」
まただ、と子怜は胸もとをつかんだ。例のあれだ。胸の奥がぎゅっとしめつけられるような、甘くうずくような、手に負えない感覚。鼓動が速くなり、目のまわりが熱くなる。
「わかったな?」
笑みを含んだ声に頭をおされるように、子怜はうなずいた。
「よし」
かたがついたとばかりに、伯英は子怜の両肩をたたく。
「
伯英は懐から取り出したものを子怜の手ににぎらせた。それは手の中にすっぽりおさまるほどの小刀だった。鞘をはらうと、よく磨かれた刀身の冴えた光が子怜の眼を射た。
「使わずにすむならそれに越したことはないが、もしものときは、ためらうな。自分の身は自分で守るんだ」
わからないな、と子怜は思った。
わからないことだらけだ。このひとは自分に花をくれた。名をくれた。居場所も、たくさんの言葉も。なぜこんなに多くを与えてくれるのか、まるでわからない。わからないが、それでもかまわなかった。
「伯英」
このひとが死ぬなと言うならそうしよう。側に居つづけるためなら何でもしよう。だから、
「帰ってきてね」
あたりまえだ、と笑う顔は、星明りのもとで普段よりずっと優しく、やわらかく見えた。
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