薫風は南より(二)
「……馬鹿な」
最初に反応したのは県令だった。
「そのような命があったこと、わたしは知らぬぞ」
「それも当然かと。なにしろ、限られた者にしか明かされなかった密命にございますれば」
つまり、趙都督からの信は県令より自分のほうが厚いのだと、
県令の隣では、
「先ほど使者どのも申されていた張三の乱でございますが」
張三とは、昨年まで畿南の北辺を荒らし回っていた賊の頭目である。
「かの賊の討伐の折、長徳の商人が、こともあろうに張一党へ武具を流していたことをつかみまして。その奸商こそ、
「なんと……」
県令の口から
「それはまことか、王都衛」
「無論」
「それをお知りになった趙都督が、われらに辛を討てとお命じになったのですよ。本来ならば、しかるべき法に則り罪人を裁くべきだったのでしょうが、やつめ、ほうぼうに
われながら苦しいよなあ、と伯英は胸のうちでぼやいた。いささかどころではなく無理がありますね、とは、この策を打ち明けたときに
だが、無理だろうと無謀だろうと、ひとたびこうと決めた以上、伯英はどこまでもこの芝居を押し通すつもりだった。
昔からよく言うではないか。喧嘩においては度胸とはったりが肝要だと。そして、伯英は自他ともに認める喧嘩上手であった。
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