暁に咲く(七)

「だから言ったろ」


 つかまで赤く染まった剣を手にさげて、伯英はくえいは淡々と告げた。


「あんたは、おれたちを買いかぶりすぎだって」


 自らがつくった血だまりに伏す朱圭しゅけいの頭がぎくしゃくと動き、よどんだ目が伯英を見あげた。


「それか、芝居の見すぎだ。崖を駆けおりて敵将の首をとってこいってのは、さすがに無理があるぜ」

「……あなた」


 奇妙な音がした。ごぼりと、沼底から泡が噴き出すようなその音は、朱圭の喉からもれたものだった。


「まったく……おしいですねえ」


 口から血泡をこぼしながら、朱圭はたしかに笑っていた。おかしくてたまらないというように。


「……ろくな死にかた……できませんよ」


 さらに何事か言いかけた朱圭の身体が痙攣した。震えがおさまったとき、両眼の光はすでに消えていた。


 黙然と朱圭を見おろしていた伯英の唇が、かすかに動いた。知ってるよ、と子怜しりょうの耳には聞こえた気がしたが、さだかではなかった。


「おまえ」


 亡骸から視線をはずして子怜を見た伯英は、いぶかしげに眉をひそめた。


「なんで笑ってんだ」


 いつかの夜と同じ問いだった。そのときは返せなかった答えを、子怜は口にする。


「綺麗だから」


 あっけにとられたように伯英は目を見開く。


「なにが」

「伯英が」


 笑みを濃くして、子怜はつづけた。


「あなたには、赤がいちばん似合う」


 血のあかが。


 伯英はしばし無言で子怜の顔を見つめていたが、ややあって頭をふり、足もとの血だまりから小刀を拾いあげた。


「役に立ったみたいだな、これ」


 濡れた刀身を、伯英は手の平でぬぐう。


「けどな、なんだっておまえはまたひとりでふらついてんだよ。まったく、聞き分けがいいんだか悪いんだか……」


 小言つきで返された小刀を受けとりながら、子怜は「伯英」と呼びかけた。


「うん?」

「おかえり」


 大きな手が頭をなでてくれた。

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