純白に染む(二)
意識をとりもどしたとき、最初に感じたのはひりつくような喉の渇きだった。うすく両眼をあけると、暗い視界で大きな影がひそやかに動いた。
「目が覚めたか」
枕元にひとりの男が座っていた。顔は見えなかったが、すぐにあの男だとわかった。よく響く低い声と、しなやかな猛獣のような気配で。
「喉が渇いているだろう。水を持ってきた。ゆっくり飲めよ」
唇に水差しがあてがわれた。細い口から流れこむぬるい水を夢中で飲み、充分に喉をうるおしたところで、ほっと息をつく。とたんに、ずきりと左肩が痛んだ。肩だけではなく、両の手足も、胸も。体中がきしみ、はげしい悲鳴をあげている。唯一痛みがないのは頭だけだったが、かわりに熱い湯にあてられたようにぼうっとしていた。
「傷から熱がでたんだ。苦しいだろう」
かすかに首をふった。痛みはある。だが、耐えられないほどではない。
「上等だ」
笑いの気配が伝わってくる。そろそろ暗さにも目が慣れて、おぼろげながら男の顔が見えるようになった。
年は三十前後か。
「眠れ。何も心配しなくていいから」
額に大きな手があてがわれた。心地よいその重みに、両のまぶたを閉じる。眠りはすぐにやってきた。夜の闇よりも深く、安らかな眠りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます