天川に星を逐う(二)
「撃って出るだあ!?」
大声をあげたのは軍議の末席に連なる
「どういうことだよ」
迅風は、たったいま出撃案を示した
「おれたちは
口から唾を飛ばしてまくしたてる迅風の左右で、王家軍の面々が同意のしるしにうなずいた。
王家軍が嚇玄一党を引きつけている間に、趙都督が
王家軍が捨て石扱いされていたと知り、迅風たちは烈火のごとく怒り狂った。それまで持ち前の愛想のよさで王家軍にとけこんでいた朱圭は、一転して周囲からとげとげしい視線を浴びせられるようになっている。
「まあ落ち着いてくださいよ」
しかし、当の朱圭はいっこうに
「今度は裏なんてありませんから」
「今度は!?」
迅風たちの怒りに油をそそいでいる朱圭の隣で、四十がらみの男が先ほどから青い顔をしている。
男の名は
伯英はその姿に
王家軍に二千の兵を引きわたし、あとは後方支援に徹していればいいはずが、いきなり最前線に引き出されてしまったのだから。
ただ、悠長に同情している暇は伯英にもなかったので、すぐさま思考をきりかえて、床にひろげられた地図をにらんだ。
趙都督率いる三万の軍は、江夏から北へ五百里ほどの
嚇玄軍は勝利の余勢をかって一路この江夏へ向かっており、一方で都督軍の敗残兵たちは、逃走の道すがら罪のない
いつもそうだ、と伯英は苦い思いをかみしめていた。
いつだって、まっさきに犠牲になるのは弱い者。そして、官軍は守るべき民を逆に狩りたてる。
「使者どの」
「そもそも、なにゆえ趙都督の進路が嚇玄の側にもれていたのです」
「そこはわたしも知りたいところでして」
朱圭は頭をかいた。
「あちらの密偵がよほど優秀だったのか、あるいは、あまり考えたくはありませんが、われらの側に内通者がいたといったところでしょうか」
「その内通者が、あなたということはありますまいな」
「おっかないことをおっしゃいますねえ」
朱圭は薄い笑みを顔にはりつかせた。文昌の両眼に怒気がゆらめき、迅風らが腰間の剣に手をかける。一気に張りつめた空気を、
「よせ」
伯英の苦い声が断ち切った。
「くだらんことで揉めている場合か。だいたい、そいつが裏切者だとしたら、昨夜のうちにこの城から逃げ出していただろうよ」
「さすが王虎将軍。話のわかるかただ」
「無駄口はいいから、さっさと話をすすめてくれ。あんた、おれたちに何をさせる気だ」
「承知いたしました。では、こちらをご覧ください」
朱圭の指が、地図の一点をさした。
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