第24話 厨二病

 最初からイロモノ対決で始まったが、続く二試合目はついに俺たちの番。厨時代に対するは、俺たちと同じく、高校生チームの『錆びた釘ラスティッド・ネイル』だ。

 錆びた釘たちは、俺たちのコンセプトと被ってると一瞬、警戒したが、ポエム自体は長い坂道を自転車に乗りながら全力で駆け上がる真っ青なものだった。厨二病的な名前の割に、いまいちぶっ飛びきれていない! 所詮は青臭い高校生風情よ! 俺達の闇の力ダークネス・ギガ・フォースを見るがいい!


 ――開始のゴング。さあ、終末を奏でる笛ギャラルホルンの音だ!


「我の名前は地獄の暴走機関車、ギャラクシートレイン!」


 俺たちの先駆けであるリョウエイはステージの真ん中に仁王立ちすると自分を指差し、続けて会場を指差し全力で叫んだ。会場には合唱部で鍛えられた無駄に良い声が広がる。


「高速で空を駆け抜ける我はどんな奴が相手だろうと捉えることができないぜ」


 俺たちの姿を見て、次はどんなやつが出てくるのだろうと期待の眼差しをめげていた観客の目が一気に狼狽の色へと変わる。遠目からでもわかるが会場全体の視線はこちらに釘付けだ。審査員席の文芸を生業にしている人たちも驚きの色を隠せないようで、山崎バニラさんの甲高い「ひえ」と言う叫び声がかすかに聞こえた。


「この中に我を抜かせる奴がいるか! どんなやつでもかかってこいよオン!ブンブンブンブン!」


 リョウエイの頭の中ではハーレーダビッドソンにでも乗っているのか、バイクのアッパーハンドルを握り夜の首都高速を全力疾走する暴走族のごとくけたたましいエンジン音を鳴り響かせ、いたって真面目な顔で会場に松里良栄と言う男アピールした。しかし彼の演じるべきは地獄の暴走機関車である。断じて真夜中の珍走団ではない。


 しかし、会場大爆笑!


 続いては俺の番だ、俺を見ている全ての人には是非察して欲しい。リョウエイの後に続く俺の気持ちを! 俺はあがり性なのだ。ライトでうまくごまかされてはいるが、近くに寄ったらあだ名がりんごちゃんになりそうなほど火照っているのが分かる。しかし、ここで男を見せなければ一生後悔することになるだろう。この全国大会、俺の全力を、俺自身を全てさらけ出さなきゃ勝てないことはわかっている。だから俺はいつまでもステージの中心でポージングを決めているリョウエイをさりげなく後ろに押しのけ、顔の前で親指、人差し指、薬指の三本を鷹の爪のような形でポージングし、カッコつけながら腹の底から声を振り絞り叫んだ! ククク、体の奥底から闇のパウヮーが漏れてきそうだぜ!


「俺は――孤高なる影、ロンリーファントム! この崇高なる絶影の使者は、教室でも並び立つものがないほどの高みにいる! 現に、クラスメイトたちはこの影に話しかけるどころか、一切近づくことすらできない! 今日も俺は教室の隅で一人、呟くのさ。ああ、今日もまた、俺の世界がアセンションしている。孤独最高、孤独な我、かっこいい!」


 よし、キマった。続いて中島だ。俺はリョウエイほど図太くないのでさっさと後ろに下がり、最後の中島に全てを託した。今日の中島はアドリブではなく俺の作ったポエムを読んでいる。


「私の名前は青春のエスペランサ。風の如き疾風を身にまとい大都会をかける蒼い風。うらぶれた人生に爽やかな春風を添えるが如く、今日も島から島へと気ままに旅をする渡り鳥。吹きすさぶ旋風とともに停滞した雨雲を空の彼方へと連れてくぜビュンビュンビュウーン!」


 さあ、フィニッシュだ。俺たち三人はリング中央に陣取り、それぞれ思い思いに格好いいポーズを取り、観客に魅せつける!


「俺「我「私たちの名前は厨時代」」」


 下界の民共よ、刮目せよ。さあ、これが、伝説だ――。


「俺、「我、「私、格好いい」」」


 ――終了のゴングが鳴る。

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