第22話 厨時代

「ドラゴンスレイヤー、いいじゃん。詩のボクシングの全国大会に使えよ! 鷹岡、お前、これで一本詩を作れ!」


 リョウエイの演技でひとしきり笑った後、檜山先生が言った。全国大会には十四チームが参加する。俺たちが順当に決勝まで進むとして、決勝戦は必ず即興詩になるから、必要な詩は三つ。全国大会まで一週間を切った今、俺たちの方向性も発表する詩も決まっていなかったので、まさに渡りに船だった。


「それじゃあ、ドラゴンスレイヤーで詩を書いてみますね」


 俺がそう言うと、檜山先生が嬉しそうにこくこくと頷いた。と、その横で中島のガタイのよい体がのそりと動く。


「えー、ドラゴンスレイヤーって、リョウエイはいいけど、俺とアキが演じれるの? リョウエイ一人で完結してるじゃん」


 珍しく中島からの意見が飛ぶ。なるほど、一理ある。俺も中島もドラゴンスレイヤー感はない。しかも、ドラゴンスレイヤーだけじゃ、詩の内容を膨らませるのにも限界がある。


「それじゃあ、三人合わせてドラゴンスレイヤーってことで、三人それぞれにもあだ名的なのをつけるよ。だから、ドラゴンスレイヤーをイメージに三人分の詩を作る」


 俺が案を出すと、中島が首を縦に振った。どうやら納得してくれたようだ。


「例えば、リョウエイにあだ名をつけるとしたらどんなのがある?」


 檜山先生が俺に聞く。


「そうですね、例えば、地獄の暴走特急――銀河鉄道ギャラクシートレイン。とか」


 檜山先生がニヤケる。


「いいね、いいよ。リョウエイ、言ってみ」


「我の名は、地獄の暴走特急! ギャラクシートレイン! シュウー!」


 リョウエイが全力で叫ぶ。しかも、手は蒸気機関車のピストンを駆動させるブラスト・パイプのごとく、シュッポシュッポと回転させながら! リョウエイの口から蒸気が見える。それを見た檜山先生は爆笑している。


「俺は、孤高の影――ロンリーファントムで」


 俺は、あんまり友達いないからね。この辺が妥当かと。


「中島はどうする?」


 リョウエイが中島の顔を見る。中島は眉をひそめて、えー、と言っている。


「考えた。青春のエスペランサとかどう?」


 檜山先生からの提案。先生からの命名ともあり、中島は渋々の承諾。

 三人の名前が決まった。俺たち三人は、檜山先生の前に立ち、それぞれの二つ名を言い合うことになった。


「我は、地獄の暴走特急! ギャラクシートレイン! シュウー!」


「私は、孤高の影、ロンリーファントム!」


「俺は、吹きすさぶ疾風! 青春のエスペランサ!」


「「「俺、かっこいい!」」」


 恥ずかしさで赤くなる中島。妙な満足感に浸る俺。そして、なぜかやりきった感を出し、得意げなリョウエイ。檜山先生は笑いすぎて過呼吸になった。ちなみに、最後の、俺かっこいいは、檜山先生案だ。

 周りをみると、他のディベート部の面々がみんな笑顔でこちらを見ている。


「よし、決まったな。お前ら最高に厨二病だ! 厨二病。いいな、コンセプトとしては良い! そうだな……決めた! お前らのチーム名は厨時代だ!」


 厨時代。厨二病と、当時流行っていた少女時代からとった名だ。俺は、この時、檜山先生から命名された名前が妙にしっくりきたのを覚えている。


「お前たちは今日から厨時代だ! 時代を創って来い、厨時代!」


 この日から、俺たち厨時代の伝説が始まった。

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