第19話 余韻
女子の髪って何でこんなにいい匂いがするんだろう。黒部に来るまでは全く気がつかなかったのに……。帰りのバスの中、緊張の糸が解け、一気に来た疲れから、俺はバスのシートにもたれかかっていた。
俺たちAチームは一番後ろ、四列目の席。前場たちBチームは俺たちの一つ前の席に座っているため、星井たちの髪が俺の顔の前にあるのだ。ちなみにうっちーと鎌田は二列目の席。
俺は、女子高生の匂いが詰まった空気を
「よし、帰るぞ!」
檜山先生の掛け声とともに、俺たちを乗せたバスは動き出す。バスが動き出しても、俺は実感もなく、ぼおっとしていた。
「何しけた顔してんだ~、うぇ~い」
「おばぁっ!?」
中島が俺の腹をつついてくる。俺は突然の衝撃に、意識が覚醒した。
俺をつついた犯人を見やると、奴は満面の笑みでにやにやと笑っている。何故か中島のテンションが高い。お前、そんなキャラだっけ?
「リョウエイの、腹! あっはっは!」
「ちょっと、中島、や~め~ろ~」
リョウエイが中島の攻撃に必死に抵抗する。その姿を見て、車内が笑いに包まれる。
三人掛けのシート中央に座る中島は、両隣の俺とリョウエイの腹を交互につつき、俺たちにウザがられている。
前場や星井は携帯を見たり、時折檜山先生に話しかけたりと、割と自由にしている。
――黒部高校との戦い、結果は接戦だった。最初、投票は観客全員で行われたが、会場の票が分かれ、最後は市長代理の票で優勝が決定した。
俺は大会が終わった後、俺たちを勝たせてくれた市長代理のもとへと向かった。
「何故、俺たちを優勝させてくれたんですか」
純粋な疑問だった。俺たちの詩は、黒部チームの熱意は及ばないと心で思っていた。それに市長代理は、黒部を代表する者として、黒部チームの肩を持つのではないかと思ったからだ。
「君たちが頑張っていたからだよ。もちろんどちらのチームも素晴らしかった。それに、黒部高校の子たちがこれほどまでに地元のことを愛してくれて、未来が明るいとも思った。すごく悩んだよ。でも、原点に帰って、素直に見てみると、何となく君たちが全国に行くと面白いだろうなって思った」
俺がまだ聞こうとすると、会場の入り口で市長代理を呼ぶ声がする。
「じゃあ、頑張って」
市長代理はそう言って、足早に去っていった――。
一つの壁を乗り越え、俺たちの絆は少し固くなったようだ。
それだけじゃない、試合が終わった後、黒部高校の連中と握手をした。彼らは、自分たちが優勝したかのように、喜んでくれた。初戦で負けた前場たちもそうだ。会場で、何かを受け取るように俺は前場と拳をぶつけ合った。
バスは進む。俺は、その意味をずっと考えている。
「期待されてんのかな」
俺はそうひとりごちた。周りに聞こえないように言ったつもりだったが、中島が笑いながら俺の背中をバンバン叩いた。
俺たちのやりとりを運転席で聞いていた檜山先生の肩が揺れた気がした。何故か、急に全国という大きな舞台を自覚した。頑張ろうと思った。
「あ!」
「どうした、アキ」
俺が突然大声を出したので、檜山先生が反応した。
「温泉」
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