第14話 リア充死すべし

 黒部高校チームによる詩はホームである国際会館セレネで遺憾なく発揮され、会場内の黒部びいきの観客たちの心に大きく刺さった。

 また黒部びいきでなくとも、黒部の魅力を詰め込んだ黒部愛満載の詩でノックアウトされた俺は、続くBチームの朗読を目前にしていた。

 Bチームは優等生の前場と星井、そしてイケイケ女子の柿里の三人である。いったいどんな詩が飛び出すのか。見たところ、Bチームは無理に連携をとらず、三分間で一人一本ずつポエムを詠むようだ。


 ゴングが鳴る。あらためて見ると、三人とも揃いも揃って見た目がいい。華やかさもある。そんな中、最初に口火を切ったのはイケイケ女子の柿里だ。


「今日のデート。小悪魔コーデで大人な私をキメちゃう☆」


 その瞬間、俺の周りは最大瞬間風速百km/hを超え、黒部から実家の高岡まで飛ばされそうな衝撃を受けた。


 何だこれは、彼とディズニーに行っただとか化粧がどうだとか、彼氏に対する女子の努力と愛情に溢れているッ!! テーマは恋か。キラキラと眩しすぎて俺には直視できない――。そもそもこんな人生、富山が誇る藤子・F・不二雄先生の漫画でも中々見ない――!


 柿里はその後も彼氏とののろけ話をふんだんに盛り込んだ詩をぶっ込んできた。この時点で、俺のライフポイントは尽きかけている。

 続いては優等生の前場だ。流石に男なら柿里レベルでキラキラはしていないはず――。


「さようなら。と言った君の笑顔は忘れない。ありがとう。くしゃくしゃになった僕の心は何度もそう叫んでいるよ」


 クソッタレ。何だそのイケメンワード!? 失恋を詩にしたようだが、別れ際もめっちゃお洒落やんけ! 嫉妬の炎が俺を包む。


「ギギ……ギ……」


 隣から怪音が聞こえる。隣に座って居るのはリョウエイだ。俺はリョウエイの方へ向く。


 隣を見ると、リョウエイが目を大きく見開き歯ぎしりをしている。

 俺は、何故かこの時、リョウエイと心が通じ合った気がした。


 この時点で俺の魂は粉々に砕けて辺りに散乱している。俺の心はガラスの十代なんだ? やめてくれ、それ以上はいけない。駄目だ、耐えられない。最後は星井だがどんな詩を――。


「大好k――」


 ぐわああああああ! これは、彼氏へのどストレートな想いを綴った乙女の詩だ。まさに純真だ! 俺は死んだ。


「ニョーゼーガーモンイチジーブツ……」


 またもやリョウエイから変な声が漏れている。俺はリョウエイの顔を見て唖然とした。


 リョウエイの顔がヤバい。血走った目と歯ぎしりだけではなく、さらに中指と人差し指をクロスさせ怪しい呪詛を唱えている! いや、これは浄土真宗の阿弥陀経!?


 しかし、ここまで来ると嫉妬を通り越してだんだんと心が温かくなってくる。これはもう尊さの極み。甘ったるい上に清純だと!? 俺もこんな彼女がほしかった――。

 俺とリョウエイがBチームの詩で攪乱されている中、中島だけは静かにその場を見つめていた。


「アキ、リョウエイ――勝てるぞ」


 中島が唐突にそんなことを呟いた。


「中島。どういうことだ?」


 リョウエイは唱えていた阿弥陀経をやめ、中島に疑問をぶつける。


「周りを見て見ろ」


 俺とリョウエイは周りを見る。すると、周りの大人たちは眉一つ動かさず、ただ高校生の茶番劇をぼんやりと見ているようだった。


「黒部高校が詩を詠んでいるとき、もう少し反応があった。なぜならば、黒部高校の詩に地元民は共感していたからだ」


「だから何だ? 言ってる意味が分かんねえ」


 リョウエイは中島の話に合点がいっていないようだった。


「つまりだな、年齢層の高い観客に刺さる言葉は若者の恋愛じゃないってことだ」


 そうか! ただでさえ少子高齢化でお年寄りが多い富山だ。高校生で勝ち組だとはいっても、年配の方からすれば孫のほほえましい姿にしか映らない!

 俺が、中島の言わんとしていることを要約する。


「そうだ、やっと分かったぜ。俺らがやるべきことはただ一つ。観客の心を動かすんだ!」


 中島が肯首する。


「この勝負、俺たちの生き様を魅せてやろうぜ」


 中島が、俺とリョウエイの顔を見る。


 そうだ、俺たちは別に負けるために黒部に来た訳じゃない。俺らの詩を聴いてもらう為にここに来たんだ。


 リョウエイは、分かったと言わんばかりにいい顔をした。おそらく、半分くらいは分かっていないだろう。


 ……。まあいい、会場を沸かせる覚悟は出来た。

 魅せてやる。モテない者たちの生き様を――。

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