第30話 孤独な現実に立ち向かう君たちへ

 ふと、真上を見上げる。そらから降り注ぐ光。そうだ、俺たちは今ここに立っているんだ。レフェリーからマイクを渡され、自然と手に力がこもる。一回戦には無かった重みがずっしりと右腕にかかる。そうだ、これは覚悟だ。


 ウミガメの皆。俺は、君たちの叫びが届いたぞ。何故なら、俺も独りだったから。つまらない高校生活の中であがき苦しんできたから。でもな、この世界に救いはあるんだ。世界ってな、自分が思っているよりも広いんだ。まだ、十六年しか生きていないけど、それでも俺に伝えられる何かがあるのなら、俺は、君たちの先輩として届けたい。聞いてくれ、俺の、の叫びを。


 いくぞ――。視線を左右に振る。リョウエイと中島が頷く。


 スッ――。それは、俺が今まで生きてきた中で、一番深い呼吸。


「YO! YO! ウミガメ聞いてくれ! 独りで戦う者へのエール」


 唐突に始まるラップ。ざわめく観客。重なる二人の手拍子クラップ


「「言ったれ鷹岡お前の感情フィール!」」


 二人の右腕うでが、空に振り下ろされる。ウミガメたちの目が大きく見開かれる。


「第一志望に落ちて来た俺、入学デビューから最悪なビュー」


 すべてを飲み込む覚悟は良いか。俺たちはまさに言葉の掻き回すものシェイカー


「「何だい鷹岡ボッチかい!」」


 両側の野次やじが俺をく。いじりを疎ましく感じた自分は、もういない。これは、俺の隣で一緒に戦ってくれる友からのエールだから。


「仲間がいないの本当に大変、地獄と天国、行き先はどっち」


 右か左か指差し確認。言葉の重みは期待の本人。


「ガチで不審者挙動不審!」


 リョウエイが全力のパフォーマンス。ああ、今のお前はどこからどう見ても立派な不審者だよ。


「周り敵だった頃、カレー食ったソロ」


 そうだった。俺は独りだったんだ。知らずしらず、自分の殻に閉じこもって。


「食堂の隅で独りで食ってる!」


 中島の絶妙な合いの手。カレーをかっこみむせるリョウエイ。観客席からはポツポツと笑い声。


「勉強なんてまさに最底辺、教師に土下座強要されんだ、教室にtogether No No 諦めサレンダー


 叫んでて、思った。やっぱ、ふたりともすげえわ。


「リョウエイいじられマジリスペクト。ガチでクラスのムードメーカー」


 最初は、いじられているリョウエイを見るのが嫌いだった。


「いやいやマジマジただの楽観主義 right?」


 だって、自分からクラスの連中に一人でぶつかっていけるなんて、到底俺にはできっこないから。


「中島の夢は将来医者とか頭良過ぎでマジリスペクト」


 俺は、妙に頭の回る中島の才能が嫌いだった。


「親に敷かれたレールを全力疾走!」


 迷いもなく、自分の頭で道を切り開いていくその背中があまりにも眩しすぎたから。


「仲間を認める心は寛大。いじめやケジメも、どんな問題! そんな大ボケまさにちっぽけ。海原泳いでデカくなりゃいい」


 今わかった。俺の歩んできた道が。


「その手で掴めよ、チームウミガメ」


 決して間違っちゃいなかったってこと。


「隣の友達マジ一生モンだから、君たちなら出来るぜ」


 孤独を知るから優しくなれる。独りだったから、今の厨時代と出会えた。


「戦っていこう俺らがついてる!」


 ――知ってるぜ、アキ。お前が独りで戦って来たこと。


 ――みんなでおパンティを見上げたあの日、平井のジャバラバに悩まされていたこと。


 ――本当は独りじゃないんだ。みんな、お前を待っているんだぜ。


「俺たち今日からウミガメのダチ」


 何だか俺たち、笑えるな。ダサくていい。下手でもいい。伝われば、いい。


 ――終了のゴングが鳴る。

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