第25話 死に至る病 上

 ピッ、ピッ、ピッ…。ピッ、ピッ、ピッ…。と規則正しい音にゆっくり目を開けた。


 天井は真っ白、そして…明るい…。

 耳元から先ほどの音が聞こえてくる。


 アサトはその音のする方向へと顔を動かす。

 そこには、画面と言われるゲインツのラボにあったようなモノが見え、その画面には、線が小刻みに映し出されている。

 画面の右側には数字が映し出されていたが、その数字がなにかは分からなかった。


 左手が固定されている感覚があり、その方向へと、今度は視線をむけると細長い棒状のモノがあり、その上部には水の入った袋が2個、その袋から筒がでており、その筒はアサトにむかって伸びているのがわかった。

 棒状の向こうには大きな窓があり、その向こうは真っ暗である。


 「目が覚めましたね…」と声が聞こえてくると、視界に真っ白な服を着て、口に大きなマスクと頭に小さな帽子を上げている兎の獣人が現れた。


 え?とアサト。


 「熱は下がっているようですね、それと…」と言うと、先ほどの画面へと視線を移し。

 「脈拍も血圧も安定していますね…」といいながらアサトへと向き笑みを見せた。


 「あのぉ…」とアサト。

 「もう少し横になっていてください、今、を呼んできますから」と言いながら、掛けている布団を直して、アサトの視界から消えた。

 扉が開いて締まると、再び、扉が開き…そして…締まった…。

 アサトは、視線だけを彼女が向った先へと走らせる。

 そこには、2重の扉がついていた。


 部屋全体は真っ白であり、どこからか唸るような音も聞こえてくる。

 LEDの蛍光管も確認できた、あの『カオス』の村にあった光を発している棒状のものである。


 しばらくすると、扉が開く音が聞こえた。

 アサトは先ほど確認した扉がある方向へと視線を移す。

 扉の向こうには、真っ白く長い丈の服を着た者と、背が小さく、同じような格好をしているモノがいて、外側の扉が閉まっているのを確認したのち、内側の扉を開いてなかに入って来た。


 と…、今度は大きな窓の向こうに、心配そうな表情のシスティナが現れると、タイロン、クラウトと姿が見えた。


 中に入って来たモノが扉を閉めると、今度は先ほどの兎の亜人と…ゴブリンであろうか…背の小さく緑がかった肌で横に耳が長いモノと、ドワーフのような背の小さな人が入って来るのが見えた。

 先に入って来たモノは、背の高く細長い体をしていて、目には丸く分厚そうなレンズが付いているメガネをかけ、真っ白で大きなマスクをかけている姿であった。

 そのモノが何かを見ている。

 一緒に来た背の小さなモノも、同じようにメガネをかけ、顔の半分を覆うようなマスクをしていた。

 真っ黒い長い髪が三つ編みに結わえてあり、その髪は腰より下まで長いのが確認できた。


 背の高いモノが指示を出しているようだ、背の低いモノが見上げながら何回か頷いてから、アサトの方へと向かってくる。

 そのモノをみていると、丸くて分厚いメガネがこちらを見ている…、見ている…だけ…。

 何も言わずに傍に来ると背伸びをして画面を覗き込んでいた。


 「さて…」と背の高いモノが言葉を発する…その言葉は…男の声であるが…。

 どこか人間味の無いような声質である。


 「バイタルは…まぁ…こんなものか…」と言うとアサトを見て。

 「気分はどうかな?」と聞いて来た。

 その言葉に、「あ…、眠っていたから…」と言葉にすると、「そうだね。悪くはなさそうだ」と言い傍に来ると手首を軽く握った。

 その手は…冷たい…。

 画面を見ながら何かを確認しているようである。

 背の低いモノは、アサトを凝視していた。


 「とりあえず…今は大丈夫そうだね」と言うと、背の低いモノの背中を小突き、首をクィっと上げた。

 その行動を首を傾げて見ている背の低いモノ。

 すると…「レンコ…起こしていいという合図!」と言葉にすると、ハッと何かを思い出したようにベッド…であろうか、アサトの横になっているベッドの脇にあるモノを操作しはじめた。


 すると、上体が起き上がり、膝辺りも小さくせり上がる。


 「あっ」とアサト。

 その言葉にベッドの動きが止まり、背の低いモノは…レンコはアサトを凝視している。

 「これくらいで…」と言うと、手にしていたモノを一度見てから、ベッドの脇にある柵に、その箱のようなモノを引っかけてアサトを凝視した。


 「すまんね…レンコは今、修行中なんだ…」と背の高いモノが言葉にする。

 「修行中?」とアサト。

 その言葉に頷き、「初めまして、アサト君。僕が、君の主治医、だ」といい…多分笑みを見せたのだろう、マスクが小さく動いた。

 その言葉に「エイアイさん?」とアサト。

 アサトの言葉を聞いて、「そうだ、私が君たちが探している錬金術師のエイアイ…ポドリアンから連絡は貰っていた」と返す。

 「そうでしたか…」と小さく言葉にするアサト。


 その様子を見てから、「そして、この子が研修生のレンコ…わたしの娘だ」と言いレンコを見た。

 レンコは…凝視したままだ。

 そのレンコに向かい、「挨拶は!」とエイアイ。

 その言葉にハッとしたようにピクっと動くと、頭を下げ、「私が、あなたの主治医の研修生…レンコ」と言葉にした。

 その行動を見て苦笑いを浮かべるアサト。


 この人が…錬金術師…術を使うモノと思っていたから、もっと、異様と言うか、なにかローブとかフードの付いた、魔法使いが着るような服を着ていると思ったんだけど…。


 アサトはエイアイの姿をじっくりと、そして、不思議な感じで見ている。

 その姿を見て、「あぁ…期待外れかな?君の仲間も同じ反応を見せていた、これは白衣と言うモノ…そうだな…、元居た世界では、研究者やわたしのような医者が着る…制服みたいなもの…そこに居る兎の亜人…『ラオハー』は…看護師だ。そして、着ているのが看護師の制服。君の身の回りを手伝ってくれる…。」と言葉にした。


 「最後まで…?」とアサト。

 その言葉をききながら「ラオハー」と呼ぶ。

 アサトは、先ほど…、ここであった最初の人物を見た。

 彼女も笑みを見せているのであろう、頭を下げる前にマスクが小さく動いていた。


 「そして、わたしの不在中に君を担当する『キリック』と『オルドル』だ。」と紹介する。


 キリックはゴブリンで、エイアイと同じ白衣を着てマスクをしている。

 オルドルはドワーフであるが、ポドリアンのような髭は無く、清潔な様相を見せており、また、白衣を着ている。


 彼らも小さく頭を下げると、画板を出して何かを書く準備に入った。

 その行為にアサトも小さく頭を下げてからエイアイへと視線を移す。


 「かれらも私と同じ医術を身に付けたモノ。と言っても、誰も認定はしてくれないが…だが、最高水準の医術を身に着けている事は、私が保証するから、安心してくれ」と言い、再びマスクを動かす。


 エイアイの言葉に、二人を見るアサト。


 …最高水準の医術?


 不思議そうに二人を見ていたアサトに、「食欲は?」とエイアイが言葉をかけて来た。

 その言葉に、「いえ…今は…」と言うと、エイアイは、レンコの背中を押しながらアサトから離し、レンコのいる場所にある小さな椅子に腰をかけた。

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