第6話 ナガミチの元へ…アズサの最後 下
ケンゾウの言葉に一同が進み、時間を置くことなくケンゾウの馬車が進むと、ジリアと言われた翼有人族の女がリンデル導師を乗せ、手綱を弾いた。
ユリコは、ミミナガを乗せ、ミミナガと言われたスクラットが状況を確認した後、ジリアの馬車を追い始める。
オオォ~~。オオォォ~~。
遠吠えがすぐそこで聞こえたと思った時、森の暗闇から眉の太く、大きく見開いている目とまっすぐに伸びた大きな鼻、そして、にやけた口の顔を持っていて、 人間の顏の作りをしているが、耳が頭にあり、黒く光沢のある毛が髪から顎を通り、肩全体を覆っていて、胸から下は毛が無く、人と同じ肌を持っている、オオカミ男がゆっくりと現れた。
その後には、一回り小さな体をしているオオカミの姿…ライカンが男の後ろから現れた。
シノブは刀を抜くと両手で持ち、上段の構えを取った。
「…早いのね…」と頭上から声が聞こえる。
その声に見上げるシノブ。
そこには、刀を抜いているアズサの姿が見え、その後方から自分より大きな盾と斧を持っているドワーフが出て来た。
「…早い?」と暗闇から出て来た、オオカミ男が低い声で言葉にした。
「明日ではなかったの?」とアズサ。
「フン、誰にどんな事を言われて察知したのか分からないが…」と言い、顎に手を乗せて辺りを見わたしてから、「…明日は、あの忌まわしきバンパイアを攻める。今夜は、ここを制圧して、前祝いにエルフをおかずに一杯と思っていたんだがな…」とアズサを見上げた。
「そうなのね…残念。もうここには、あなたらが主食とするモノらはいないわ…」と言い、刀を一振りした。
シュ…と小気味いい音と共に、男の傍にいたライカンの首が飛ぶ。
「忍術…ってやつか?人間。」とその首の飛んだライカンが倒れるのを見ながら言葉にする。
「忍術…って事は判らないけど…。ここには、あなたらを主食とする私らがいるわ!」と言い刀を構えた。
そして、シノブを見る。
「シノブ…かあさんの言葉を聞きなさい!」と言い、視線を男に移し…。
「あなたは生きるの!生きて!生きて!この世界に
「え?」とシノブ。
「グラッシィ!シノブをお願い!」と叫ぶと、グラッシィと言われた、爬虫類の男が振り返り。
「アズサ…いままでありがとう!この恩は…シノブらに返す!」と言い大きく頭を下げた。
「グラッシィ!何しているの、降ろして!降ろして!かあさんと戦う!」と叫び、肩の上で暴れはじめたが、がっしりとした腕はシノブを離さない。
「のう…リザードの戦士。お別れじゃ!」とドワーフの男が声をかけてくる。
「あぁ…アズサの最後…任せた!」と言うとシノブを連れて馬車に駆け出した。
「馬鹿ね…あんたも付き合うなんて」とアズサ。
「そう言うな…我々も多くの旅をした。その旅の最後をおまえと一緒なら幸いだし…、ナガミチ殿にも会えるしな」とニカっと笑みを見せた。
荷台に頬り込まれたシノブをエルフの民が抱きしめる。
「シノブ…かあさんの雄姿…しっかり見届けるんだ!」と言い、馬車に乗ると、グラッシィは手綱を弾く。
「か…かあさ~~ん!」。
叫ぶシノブの声に涙を一滴ながすアズサ。
対峙していたオオカミ男は、「ッチ…まぁいい。拠点作りが優先だ…おんな…今夜はお前が。俺たちのおかずだ!」と言うと、筋肉が体の奥から湧き立つように立ち始め、爪が長く、上半身が大きな筋肉の塊に覆われ、顔は鼻先が延び黒く大きな鼻に大きく裂けた口、その口には反り立った牙を備え、金色に輝く瞳を持った目は吊り上がり、雄々しく体全体を真っ黒な毛でおおわれた、獣と化したオオカミ男がそこに出来上がった。
その姿を見たアズサは…。
「さすがに…勝てないね…あれじゃ…」と言葉を漏らすと、その傍で、「それじゃ…、格好悪く…食われるか」とアズサを小さく見上げてドワーフがニカっと笑った。
そして…。
シノブの視線には、階段を駆け下りる2つの影が見え、そして、今まで寝食を共にしていた高床式住居に舞い寄せる獣の影が見える。
その影の中で、ちらちら見える。
いつも見ていた刃の光、その光が見える回数が減ってくる…涙が…涙が…止まらない…。
シノブは口を押さえて嗚咽を始める。
かあさん………。
そこには…もはや痛みは無かった。
自分の体に群がる獣の匂い…食われている感覚はあるが痛みが無い…もうすべてがマヒをしている。
血が飛び、肉片が飛ぶ。
どこかで同じことになっているドワーフ…ポッセアもいる…でも、彼の声は聞こえない。
多くの時間を費やしてここに来た。
ナガミチに出会い、恋をした。
ナガミチの見ている先を私も見たかった。
ウィザには悪かったけど…これは、わたしの想い、奪われたくない想い…だから…。
シノブ、ユリコ、そして…ケンゾウ…強く、自分の欲したモノを奪い、守りなさい。
その為に授けた力…あなたらは…。でも、そこには心が伴っているのか…ちゃんと判断するのよ…。
必ず………。
「もう…おわりね…」
アズサの頭上に見える女はいつものように妖艶に微笑んでいた。
「これで…わたしの…勝ち」とアズサは言葉にする。
その言葉に小さく笑みを浮かべながら、「そうね…。…あなたの勝ちね」と返す。
「…なら…わたしが死んだら…この森を…焼き払って…」とアズサ。
その言葉に少し考えて、「…いいわ…。あなたの勝ちを認める。」と言い笑みを見せた。
その言葉を聞くと、「ナガミチに…やっと…会える」と言葉を残し、瞳を閉じて獣の行為に体を預ける。
その体は…至る所から裂け、裂け、裂け…そして…見る形も無くなり…。
「どうしても…わたしに殺されたくなかったのねぇ~…あなた…本当に強かったわぁ」と女は言葉にすると…。
しなやかに右手を上げ、水平になったところで、人差し指と中指をゆっくりうごかして…
「さよなら…アズサ。私を本気で怒らせた、唯一の人間の女…忘れないわ…」と言葉にすると…。
「エル・ドラグア…」と重い口調で呪文を発した…………。
シノブの前に眩い輝きを放つ一閃。
その輝きに目を覆うと大地を揺るがすような轟音と共に地面が大きく揺れた。
馬車はその揺れを感じ、次々に止まる。
異様な殺気と物々しい雰囲気、そして、この衝撃に馬が我を忘れ暴れはじめる。
その馬にエルフの民が横笛を鳴らし落ち着かせ始めた。
「…なにが…おきたの?」とシノブは呆然として、後方を見る。
そこには、大きく立ち上る砂煙が見え、数メートル先にある針葉樹が根本近くからこちらに向かって倒れているのが確認できた。
しばらく、事の成り行きと辺りを警戒していると、「シノブ…ちゃん」と声がする。
その声の方向を見ると、エルフの間に、馬車のアオリ部分に腰を掛けている見た事のある女性が座っていた。
「…クレアシアン!」と言葉にするシノブ。
その言葉に、グラッシィが立ち上がり、上空でジリアがホバーリングをしながら盾と剣を持ち、馬車を囲むようにケンゾウが剣を構え、ユリコが弓を引き、スクラットがロッドを構えた。
シノブの傍にリンデル導師が来る。
そして………。
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