第5話 ナガミチの元へ…アズサの最後 上
3階から大きな音と小さな音を立てている足音が聞こえ、階段を駆け下りる音も家じゅうに響き始める。
声が一つ、二つと多くなると、その声と共に駆け出す音が聞こえ始めた。
「探すって…」とシノブ。
その言葉に、「みんな…来ちゃうは。手短に言うね。」といい、シノブの肩に手を乗せた。
「ちゃんと覚えるの…、スクラットとリンデル導師を頼りなさい。」と言葉にすると、「お…おかあ…さん?」とシノブ。
「あなたは、ナガミチの意思と共に戦って、本当の『クノイチ』としての裁量を発揮できる。彼の意思も、職業『サムライ』と言う、私たちと同じ、一子相伝の職業。」と言い目を閉じた。
その言葉に、「…同じ…」とシノブ。
アズサは瞳を開け、「そう…、あなたは、そのサブとして戦う…。私とナガミチが、そう戦ったように…」と言い、再びシノブを抱き寄せた。
「…ごめんね…、シノブ…」と言葉にした時、「おい…ババぁ!」と真っ黒な髪を一つに束ねた背の高く、右の目周辺に大きな傷を持った男が入って来る。
「かあさん?」と真っ黒な髪をツインテールにして、その髪を結わえているオレンジ色の紐をつけた少女が、大きな男を払いのけてシノブの隣に座った。
その少女は大きくコロンとした目に真っ黒な瞳でアズサを見ている。
慌ただしさに小さく笑みを浮かべながら、シノブから体を離したアズサは、シノブの手を握り瞳を見つめた。
目を大きく見開いてその瞳を見つめるシノブ。
スイルランドにある『アセラス』と言う街に誘われた日から2年。
殺すと言う事に嫌悪感を抱きながら、この地、そして、この世界で生きる為と割り切り、受け継いだ力。
その時から一緒だった、真っ黒な髪を一つに束ねた背の高く、右の目周辺に大きな傷を持った男、ケンゾウと、真っ黒な髪をツインテールにして、その髪を結わえているオレンジ色の紐をつけた、ユリコも、職業を学び、多くの困難を乗り越え、心を通わせ、いつしか母と慕い始めた、優しい瞳がそこにあった。
その瞳は、今では力はなく、映し出されているシノブの姿も薄くなっている。
1年前に母の宿命を知り、自分の無力さを痛感した日々のなか、その瞳は、シノブだけではない。
同じ民族のケンゾウとユリコも優しく見守っていた瞳。
これが…、この世界の現実…。
その言葉が思い出される。
この世界の現実は、夢や幻で無く、事実上にあり、そこには命のやり取りがある。
心と共に…、アズサは3人にいつも言う。
この狩りには、心が伴っているのか…。
今夜、初めて討伐しなければならないモノを前にしていた。
宿命からは逃れられない、だが…。
この討伐には、心が伴っている…。
「ケンゾウ…、そして、ユリコ…。あなた達は、私の子供…ごめんね…」と言葉にすると、ケンゾウは部屋に入り、「ナニ訳の分からない事を言ってんだ。ミミナガから聞いた。逃げるぞ!」と言い、アズサを抱き上げようとした。
「そうね、ケンゾウ。」とアズサは言葉にしてケンゾウを見る。
「かあさんは大丈夫…、あなた達は準備をして、かあさんも準備をするから…」と言い笑みを見せると、「そうか、分かった。行くぞ!シノブ、ユリコ!」と言い部屋を後にした。
その姿を見ていたアズサはユリコを見て、「ユリコ…、シノブを守ってね。」と言葉にする。
ユリコは頷き…、「なに言っているの、行こう!」と言いアズサの手を引く。
その行為に、「そうね…行きましょう。さぁ、シノブ。準備を、妖刀はしっかり仕舞って荷馬車に、その他もね…」と笑みを見せて言葉にする。
「かあさん…」とシノブ。
「ユリコ、シノブを手伝って」とユリコを見て言葉にすると、その言葉に小さくため息をつき、「行こ!シノブ!」とアズサの腕を掴んでいた手をシノブの腕に持ってきて、立ち上がりながら引いた。
アズサの手から離れるシノブの手…。
その感覚は……。
準備を整えたシノブは、刀8本を4本ずついれた袋を担いで家を出る。
膝上まである黒い外套、その中は、冬ではあるが、胸から膝上15センチまでしかない黒いワンピース。
そのワンピースの端は赤に染められている。
デニムの短いパンツと長くフレアになっている裾を持った服を着て、上にシノブと同じ長さの外套を着ているユリコが、シノブを待っていた。
くるぶしまである、長く黒い外套を前でしっかり止め、襟を立たし、背中に両刃長剣を背負ったケンゾウが、シノブの袋に手をかける。
その行為に、シノブは2つの袋を預けて家の中を見る。
そこには、鉄に角がついている兜をかぶった髭の濃いドワーフが、アズサの腰を抱きながら1階に降りて来るのが見えた。
ケンゾウが階段をおりて地上に到達すると、シノブの袋を馬車に乗せる。
その先には、エルフの住人を乗せている、真っ白な羽を折りたたみ、白地に金の装飾が施されっている防具を見に纏った翼有人族の女性の姿が見えた。
ユリコは、リンデルの手を取って馬車に向かっている。
小さな道を駆けてくる爬虫類の姿が見えた。
その姿が、リンデルの前に来ると立ち上がり、少し苦しい表情を見せると、体が変化を始め、体長2メートルほどの人のような姿と姿勢になった。
背中には細かく緑の鱗、腹に当たる部分には革製の鎧が付いている。
「こっちには、40と言ったところだ!」とリンデルに声をかける。
その言葉に、リンデルは別の道へと杖を向けた。
その方向を見ると姿勢を倒して、再び爬虫類の体に変化し、4足で進み始めた。
長く太い尻尾がその後に残り、そして、まっすぐに伸びてゆく。
ウォ~~~…。ウォ~~~…。
森中から幾重にも広がる遠吠えが聞こえる。
その遠吠えに森を見る一同。
馬車の数は4台。
1台に約10名ほどエルフを乗せている。
シノブは階段を降り、脇に備えている刀の柄に手を当てる。
「…おまえ…寒くないのか?」とケンゾウがシノブの姿を見て声をかけて来た。
しっかり森を見渡しながら、「かあさんの服…だから」と言葉にする。
その言葉に、「かあさんねぇ~」と小さくため息をつき、辺りを見わたしていると、先ほどの爬虫類が、再びリンデルの前に来て立ち上がり、体長2メートルほどの人間の体に変化すると、「こっちは手薄だ!」と言いリンデルを見てからケンゾウを見る。
その視線にケンゾウは頷き、「俺が先導をする。ジリアとジジイ!お前は2台目だ。3台目はユリコとミミナガ!最後は…」と言い、シノブを見て、「ババァと残りを連れてこい!」と言葉にした。
シノブは頷き、高床式住居の一階部分を見上げ、アズサらの姿を待った。
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