第4話 スイルランドの村にて… 下
アズサを憂いを持った瞳で見つめ。
「…死んだわ」と言葉にすると、悲しみを帯びているような表情を見せた。
その言葉にスクラットが腰の短剣の柄に手を乗せた。
シノブはアズサの顔を見る。
アズサは目を細めた。
その表情を見たクレアシアンは、アズサから視線を外に向け、「もう…半年まえかな…」と言いガラスに何かを描き始めた。
「半年…前って…」とシノブが言葉にする。
「あなたに会った…次の日…あたりかな…」と言いアズサに視線を移す。
その視線にアズサは表情を変えない。
「でもね…。」と言うと立ち上がり、ゆっくり、しなやかにベッドの足元まで来ると、「彼は…生きているわ…」と言い小さく笑みを見せた。
「…だって、死んでいるって」とシノブ。
そのシノブの手を握り、「…あなた…」と声を漏らすアズサ。
「そう…よ。」と言うと目尻を下げた。
その言葉にシノブはアズサを見る、「…」少し険しくなった表情のアズサを見たクレアシアンは背をむけ…。
「…そうよ…」と言いながら再び窓の方へと向かった。
窓の前に立つクレアシアンは、外に一度視線を向けると、小さく微笑み。
「明日…、始まるわ…」と言葉にする。
その言葉に「始まる?」とスクラット。
「そう…、とうとうこの日が来たわ、」と言うと振り返り、「鬼とオオカミ…」と言い、天井を見ながら、「鬼はこの森を焼く、オオカミは、鬼の住む城に攻め込むわぁ」と言いスクラットに視線を移した。
「吸血鬼と人狼の…直接対峙か…」とスクラット。
「もう、この森は、あなたらがどうこう出来ない領域の地になってしまったわねぇ?」と言うと笑みを見せ、「オオカミは、城攻めの前にエルフを食する…その為に、何頭か、この辺りを駆け回っているわぁ」
「…そうか…」とスクラットが言葉にすると、ベッド脇にある窓へと進み外を見た。
その行動を見るクレアシアン。
「…あなたの妹はちゃんと生きているわ」と、スクラットの背中に向かって言葉をかけた。
「テレニアか?」と踵を返したように振り返りスクラットが聞いた。
その言葉に、クレアシアンは笑みを見せて、「…あと…弓を扱うエルフの坊やもいたね…」と言葉にする。
アズサは視線をスクラットにむける。
スクラットは小さくうつむき、「よかった…アルニアも生きていたのか…」と言葉にした。
その表情を見て、「…なに?知り合い?」とクレアシアン。
無言で視線をクレアシアンに戻すスクラット。
その表情を見ながら、「…近親ね…。まぁ、大丈夫よ。」と言い、アズサを見てから、シノブに視線を移し、「…ナガミチの坊やは、旅に出るわ。」と言葉にした。
「た…旅?」と反応するシノブ。
「たぶんねぇ…、先日。ドラゴンにぃ…、食べられそうになっていた所を、助けてあげたわぁ」と言い笑みを見せた。
アズサはシノブを見る。
「坊やたちは…、多分…、『アブスゲルグ』に向かうわぁ」と言葉にすると、「『アブスゲルグ』?」と目を細めてスクラットが聞いた。
その声を聴いたかのように、扉からローブを被った背の低いモノが、ゆっくりと入って来て、「久しぶりじゃな…」とクレアシアンに声をかけた。
その言葉に視線を向け、目を細めて笑みを見せ。
「…あらぁ、リンデル導師…ごきげんよう」と微笑む。
「あぁ…1年ぶりか?」とリンデルは、クレアシアンのそばに近づき見上げる。
その瞳は…金色に輝いている。
「『アブスゲルグ』とは…、また危険な名前を…」と言葉にすると、「そうかな?それを求めているのでは?…少なくとも、彼は答えを探していた…」と言い、ローブの端を持つと小さく下げ、その瞳を隠した。
そのまま、アズサのベッドに戻り、「シノブちゃん?」とシノブを見る。
シノブは腰の刀の鞘に手を当てた。
「あなたも…来るの?『アブスゲルグ』に…」と言葉をかける。
「…ナガミチが探していた答え…、それが、『アブスゲルグ』…。それは…」とアズサが言葉にすると、「…元の世界に戻れる…不思議なモノがある場所…」と言い、リンデルの傍に立ち。
「まだ…教えてなかったの?」と聞いた。
その言葉に、長い白髪の髭を撫でおろし、「お前が、その道を閉ざしたのではないか…」と言葉にすると、小さく笑みを見せたクレアシアンは、「…そうね…」と言い、窓に向かって進んだ。そして、振り返り…。
「来なさい、シノブ。『アブスゲルグ』に…待っているわ…」と言うと、アズサを見て、「今日でお別れね。アズサ…楽しかったわ。時々する、女子だけの話し…」と言い笑みを見せると、やんわりとした煙が現れ、その煙に溶け込み、そして、姿を消した。
クレアシアンを見ていたシノブとスクラットは、アズサを見る。
アズサは、消えたクレアシアンを見てからシノブに視線を移し、「大丈夫よ…」と言い、目じりを下げて笑みを見せた。
「『アブスゲルグ』…とは…」とスクラットが聞くと、アズサは首を横に振りながらリンデルに視線を移した。
アズサの視線を確認したリンデルは、フードを落として視線を隠し、「…その前に…、あ奴らから逃げなきゃならぬ…」と言うと、その部屋を後にした。
その後ろ姿を見ているアズサは小さく息を吐き、「…そうね。その話は…」といいシノブを見て、「…あなた達が聞いて…」と言葉にするとスクラットに視線を移し、「…みんなを起こして、ここは…、あなたには悪いけど放棄するわ…」と言葉にした。
スクラットは、アズサの言葉を聞くと目を閉じ。
「そうだな…、奪還は無理そうだ…」と言い、その部屋を後にした。
アズサはシノブを見て、「…シノブ。ちゃんと聞くのよ…」と言うと小さく笑みを見せて。
「あなたの職業は…剣士『クノイチ』…と言って、今までアタッカーとして戦闘を教えていたけど、本来はサブアタッカーなの…」と言うと、体をシノブに向け、目の前にいるシノブに視線を合わせると小さく微笑み、シノブの小さくか細い体を抱き寄せた。
「ごめんね…シノブ。あなたはこの職業に違和感を…いえ、この世界の事に違和感や、嫌悪感を持っていたのは知っていたけど、こうしなきゃならなかったの…、お母さんと呼んでくれてありがとうね。」と言い体を離して、シノブに視線を移し、眉の上でまっすぐに整えられた前髪を右手の人指し指をやさしく横に流す。
その指をサラサラと同じ形に戻る髪を見ながら小さく笑みを見せて。
「あなたは…」と言い、小さく息を吐き、「…探すの。ナガミチの意思を…」と…。
そして…。
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