第39話 『ルヘルム地方』の異変 上

 アイゼンは、目を見開きセナスティを見る。

 「…失礼だぞ!」とセナスティの背後にいた4人のうちの一人が声を上げた。

 「失礼で結構!」とアイゼンはセナスティを見る。

 セナスティは小さくうつむいた。


 「わたしは、ギルド、パイオニアのマスターであります。皇女様」と優しく言葉をかけると、顔を上げてアイゼンを見た。

 「あなたには、まだわからないと思うが、この案件は、チームアサトに依頼する前に、もっと必要な事があるのではないでしょうか?」と聞く、その言葉にセナスティは息を飲む。

 「このギルドに依頼するには、大きすぎる案件であり、チームアサトを指名するのは、危険な案件であるように思います。我々は、一平民。その平民が、国政に立ち向かう道理が無い…。」と言うと、セナスティは目を閉じ…。


 「そうですね…アイゼンさん。私が世間知らずだったのかもしれません…」と立ち上がり。

 「この案件は、まだ、この地、ルヘルム地方には及んではいない、遠くの王都で起こっている事象…、でも、必ず、その時は、このルヘルム地方にも訪れると思います…」

 「そうですね。ただ、それを防ぐのが…あなたの役目だと思います。ベラトリウム氏は確かに、我がギルドのチームアサトを頼れと言った…でも、それは、今ではない…」と笑みを見せ。

 「あなたは、いずれこの国を収めてもいいお方…、弟君は、そんなあなたの助言を待っているのではありませんか…?、我々は、手を貸すことはできませんが、あなたを支持する事は出来る。あなたがこの国を思うなら…まずは、自分の力で何とかしてみる事も必要なのでは…」と言葉にする。


 「確かに、ベラトリウムは、と言っていました…わたしは、まだ子供なんですね。何かあったらの意味がわかりません。ただ、アサトの名前を聞いて、この状況を何とかしてもらいたいと…」と笑みを見せ。

 「私は間違っていたのかもしれません、これから、この地方に残っている国王軍の残存兵を従え、再び王都へ…」

 「いや、それはマズいですな」とアイゼン。

 「なせ?」

 「兵を従う行路は、戦いを意味します…、わたしからの提案ですが」とセナスティに手を差し伸べた。


 「あなたは、その残存兵に、あなたの思想を語り、そして、ここに常駐させておく事が必要と思います。いずれにしろ、最悪は、この国を両断した戦になるかも知れません。もし、その時にあなたが思想を語ったとしても遅い、なら、今からでも軍の一つでも持っていておいた方がいい。それを後ろ盾にして、あなたは、皇女としての使命を果たすのです」と握手を求めた。


 その掌を見て笑みを浮かべると、白い肌に大きな掌を握り。

 「わかりました…、わたしは、オースティア王国、皇女の名において…この窮地をしのいで見せます…ありがとうございました」と頭を下げた…。


 「いいの…あれで…」とサーシャ。

 「あぁ、これは我々が手を付けるには…大きすぎる案件だ。まぁ……」と意味深い笑みを見せる。

 「…ふふ…そう言う事ね」とサーシャ。

 「ただ…、我々の仲間にも。彼らにとっては害の有るものと思う者もいるかもしれない、その時は…ギルドを潰してでも…わたしは戦う」と力強く言葉にした。

 「そうね…わたしの娘に危害を加えようとするなら…母の力を見せるわ」と笑みを見せるサーシャ…。


 と…コンコンと扉をノックする音がする。

 その音にアイゼンとサーシャが扉を見て、「今日は、やけにお客が多いわね」と言いながら、サーシャは扉に向かう。


 扉を開けると、そこにはポドリアンが少し困った顔で立っていた。

 「なにかあったの?」とサーシャ。

 その言葉に、奥にいるアイゼンを見ると、一度辺りを見渡し…。

 「中で…そして、サーシャ、お前、驚くなよ」と言葉にする。

 「なによ、その神妙な顔、似合わないわ」と言いながら中に招いた。

 ポドリアンは扉を閉め中に入ると、アイゼンの前に立ち…。

 「実はな…」と話を始めた…。


 その話に、アイゼンは目を見開き、そして…サーシャは口を押さえた……。


 翌日の『ファンタスティックシティ』


 朝食を食べたアサト一行は、出発の準備をしていた。

 大きな箱を抱いてインシュアがニコニコしている隣で、舌打ちをしているアルベルト。


 馬車をオーガに準備してもらい、馬はゴブリンらが面倒を見ていた。


 エイアイの話しだと、オーガは、今、大量輸送できる蒸気で走る列車を作っているようである。

 力自慢なので、線路の設置作業と車両、機関車と言う物の外装を建築しているようだ。

 装置類は、亜人や人間族の者が共同で作業を行っている。

 この者すべては、エンジニアという職業を目的に、この地に来たようであった。


 赤の大地は不毛の地であり、そこに暮らす者もマモノや亜人らが移動を不便と感じ、調達の為に通りすがりの者を襲うと言う悪しき習慣があるようで、その習慣を無くする為に集まっているとの事だった。


 現在は、『ラッシア』から真東へ線路を伸ばす作業をしている。

 だいたい50キロを目安に駅と言う、乗り降りが出来る場所を設置する予定であるようだ。

 駅が出来れば街が出来る、街が出来れば流通が出来る…。

 とにかく、マモノと言えども、好きで襲撃をしている訳では無いとエイアイは言葉にしていた。


 まぁ~、中にはいるようだが…、それはマモノだけでない、人間にもいるとエイアイは付け加えていた。

 この言葉にインシュアがアルベルトをニヤニヤしながら見ていた。

 その視線に舌打ちをしているアルベルト…。


 まぁ~そういう展開になりますよね…。


 ゴブリンは、獣医を希望してきているゴブリンのようであった。

 彼らの村には、家畜を育てている村もあるようだ。

 その事を考えてエイアイがスカウトして歩いていると言っていた。

 案外、ゴブリンの飼育方法は、こちらも勉強になると言う。

 緑のない大地での飼育は困難だが、それでも献身的に飼育をしているゴブリンには敬服をすると言っていた。


 馬にはアルベルトとインシュア、そして、アサトが乗る。

 馬車にはタイロンとクラウト、そしてシスティナとアリッサが乗り、大きな箱が積まれると、「それ!飲むなよ」とニカっと笑みを見せてインシュアが言葉にする。


 「どうせ、エールでしょ?」と聞くアリッサ。

 「ねぇ~ちゃんは、酒をしらないね?これは…エールでも炭酸って言う、シュワシュワする何かが入っているんだ…」と言いニカニカした笑みをみせた。

 「あぁ~そうですか」とアリッサ。


 「とにかく…飲むなよ!」と指を指して後にした。

 その後ろ姿を見て、「1本くらいは大丈夫だよね」と言いながら箱から出して、栓を抜くとポンと音が立つ、その音にインシュアが気付いて駆け寄り、「おんなぁ~」と声を上げた。


 「あらぁ?ナニコレ?」とアリッサ。

 その顔を見て、「なぁ?不思議だろう?なんかビールって言うみたいなんだ」と言葉にする。

 「うんうんわかるわかる…」といい煽り始める。


 その姿を見て、「それだけだからな」と目を冷ややかにさせて言葉にした。

 「シスにもあげたら?」と言うと、インシュアは頬を少し赤らめて、「あぁ…そうだな。飲んでいいぞ」と言葉にした。

 「でも…わたし…」

 「まぁまぁ、貰っておきましょう」とアリッサ。


 その表情を見ていると…。

 「インサン…そろそろ」とアサトが声をかけた。

 その声に、アリッサに指をさすと、何回か上下させて…から馬車を後にした。


 「シスの分は私が飲んでいい?」とアリッサ。

 「いいですよ」とシスティナが笑みを見せる。

 「さっきの何だったんでしょう」と不思議そうな表情でシスが言葉にする。

 その言葉に…。


 「気にしなくてもいいと思うよ」と言い、システィナのビールの栓を開けた…。

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