第38話 王都より来たる 凶の風… 下
時、同じくして…『デルヘルム』、アイゼンの部屋。
アイゼンは、クラウトからの手紙に目を通すと、サーシャへと渡して小さく頷く。
その行動に、サーシャも頷き、部屋の扉に向かって進み、一息ついて扉を開けた。
「どうぞ…アイゼンがお会いになるそうです」と言葉にすると小さく頭を下げる。
その行動を見て、扉の外にいた者5人が頷いて中に入って来た。
フードのついたクロークを羽織った者が5名。
先頭を2名、そして、後方に2名、その真ん中に背の低い者が1名。
少し急ぎ足でアイゼンの机の前に立った。
サーシャは、その状況を見ると、扉の外にいるグリフとポドリアンにクラウトからの手紙を渡し、「しばらく…誰も近づけないで」と言葉に残して扉を閉めた。
その言葉に頷くポドリアンとグリフ。
扉が閉まると、その扉の前に立った。
アイゼンの前に立つ者らは、扉が閉まるのを確認すると、頭を覆っていたフードを取り外した。
前後に居る者は、背の高くたくましい体を持った男らであり、真ん中にいた者は、金色の髪がクロークの中に入っていたので長さが分からなかったが、目元の優しく、端正な顔立ちだが幼さが残っている、背の低い少女が、精一杯に大人を演じようとしている表情を表して、その場でアイゼンを見つめていた。
「お初にお目にかかります、セナスティ皇女殿下」とアイゼンが頭を下げた。
そのアイゼンを見つめる5名。
「同じ床の上になりますが、この位置での接見をお許しください」と頭を下げた。
その行動に、「構いません」と言葉をかける。
頭を上げたアイゼン。
その視線を見つめるセナスティ。
「それで…今日は、どのようなご用件で」とアイゼン。
セナスティは一歩前に出ると、「はじめまして。ギルド、パイオニアマスター、アイゼン殿、わたしはオースティ王国、皇女セナスティ。本日は、勝手な事ですが…、あなたのギルドに所属している、チームアサトに依頼をお願いしたいと思いまして、参じました…」と言うと頭を下げた。
「チーム…アサトにですか?」とアイゼン。
その言葉に小さく頷く。
「チームアサトは、ただいま、『ラッシア』の方へ遠征に出ております。大変心苦しいのですが…。もしよければ、その依頼の内容をお聞かせいただきたいと思います。」とアイゼンが聞く。
その質問に、セナスティは後方に居る者に目を向けてから小さく息を吐き、「そうですね…では、アイゼンさん。お話をさせていただきます」と言葉を返した。
その言葉に、アイゼンはゆっくりと横に進みながら、一同を応接セットのある方へと送った。
セナスティの話しでは、約2か月前に、国王スティアスが、何者かによって毒殺を試みられたようである、だが、毒の成分が薄かったのか、処置が良かったのか分からないが、九死に一生を得て、現在は床に伏しているとの事である。
ただ、全身にマヒがあり、公務に付けない状況が続いたために、第一皇太子のセラスナルが代理の国王の座に座っているようである。
だが、そのセラスナルは、現在10歳であり、皇女のセラスティは16歳。
男系が王位を継承するしきたりの国であるため、セラスナルが継承順位1位となり、若干年齢だが、代理になっているのであった。
そこまではいいのだが…。
この国の内政には、王の意思に賛同する者とそうでない者がおり、現在セラスナルの側近になっているのが、何を隠そう、あの…セルゼットなのであった。
セルゼットは、王の掲げる他種族共栄構想に意を唱えるグループの一人であり、そのセルゼットが、数人の官僚や公職大臣を巻き込んで、このセラスナルを背後から操作をしているようであるとの事であった。
ただ、セルゼットが国王暗殺を首謀したと言う噂は有ったが、証拠がなく、また、思想に反している者も多数おり、首謀者の限定には至っていないとの事である。
セルゼット自体、軍に力があり、同胞の将軍、アルゼストも先の討伐戦の敗因を理由に、更迭されそうなところをセルゼットに救われ、現在は、軍最高職の将軍の上を設けてもらい、その席に座っていた。
アルゼストは国王軍統括将軍と言う職に就いている。
いわば、数いる将軍を率いる事の出来る将軍である。
将軍は、与えられた人員で軍を運営する、その数は、多くて20000人程度である。
その将軍が現在8名おり、国王軍全体でも140000の勢力を持っている、その数を一気に使える力を有しているのが、この役職なのであった。
そのセルゼットの他に、帝都の懐を任されている、ハビデットと言う徴税大臣がいる。
このハビデッドは、国王の思想に真っ向に反対している派閥『人間族至上主義』を掲げている者であった。
そのハビデッドを中心に、「オースティア大陸におけるマモノ問題の最終的解決」を行おうとする動きが強まり、マモノに分類される種族の拘束が始まっており、帝都『キングス・ルフェルス』の近郊にある収容所に送られている。
また、亜人などの人間族に近い種族に関しては、奴隷制度の再開が数週間前に元老院で通り、奴隷商人らが公然と亜人の捕獲を始めているようであった。
この案件には、経済を管轄する商業大臣、ラミリットが関わっているようである。
このラミリットは、兼ねてから構想をしていた剣闘士制度を現在推し進めているようである。
ようは、奴隷と奴隷を戦わせる、それを興行として行う事であった。
また、マモノ狩りの依頼も国王の名の下に懸賞金が掛けられているようである。
皇女、セナスティが帝都から脱出してきたときには、帝都の税金が上がり始めている噂も聞こえてきていた。
国王スティアスの側近、内政を取りまとめている大臣のエルソアが、このような動きを止めに躍起になっていたが、国王スティアスの復帰絶望説の噂が広がると、一気に現国王政権に批判の声が上がり、人間族を中心とした、マモノ狩りや奴隷を捕獲しての賞金稼ぎが横行し始め、多額の税金を払うには、このような非人道的な手段を選ぶ者も増えているようであった。
その為、所得に格差が広がり、最悪の場合は、自分の子を売るものや子供に体を売らせる者まで出てきている、高額の税金を逃れて帝都を旅立つ者もいた。
もうすでに、帝都は、昔のような良識ある街ではなくなってしまったとセナスティは、アイゼンの前で唇を噛みしめていた。
「それで、わたしのギルドに所属している、チームアサトになんの依頼なのでしょう」とアイゼン。
その言葉に小さく息を飲み。
「先日、『ゲルヘルム』の高官、ベラトリウムが拘束されました。」と重く言葉にした、その言葉に目を細めるアイゼン。
「私は、収容所で彼に接見しました、ベラトリウムは、わたしにとってみれば、第2の父のようなお方。身なりはオーガと人間の合いの子“イィ・ドゥ”なのですが…、ただ、容姿が“イィ・ドゥ”なだけで拘束する…。」と膝に乗せていた掌を強く握った。
「ベラトリウム氏は、わたしも存じておりますが、お会いしたことが無く、面識は無いのですが、アサトらはお会いしたと伺っておりました。」とアイゼン。
「ハイ、彼は良識があり、亜人らやイィ・ドゥ、他のマモノと分類される方々の他に、人間族にも人望がある方です。」とセナスティ。
その言葉に小さく頷くアイゼン。
「その方が…、なにかあったら、『デルヘルム』のギルド、パイオニアのチームアサトを訪ねるようにと…」とセナスティは小さくうつむいた。
その仕草を見たアイゼンは顎に手をあて少し考える。
アイゼンの表情を見ながら立ち上がるセナスティ。
そして「お願いします。オースティア王国の危機をお救いください」と頭を下げた。
その頭部を見ているアイゼンは、小さく息を吐くと目を閉じ…。
「すまないが…この話は聞かなかった事にしておきます」と言葉にした…。
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