第37話 王都より来たる 凶の風… 上
「…ッチ」とアルベルトがベッド脇でアサトを見下ろしている。
その隣には、インシュアが、アサトの傍にあるモニターを目を細めて見ていた。
アサトを挟んで向かい側にアリッサが、安堵の表情を浮べて見ている。
「…その話は、本当なのか?」とクラウト。
その言葉に小さく頷くアサト。
「…ったく…。師匠も師匠だったが、お前もか?」とアルベルト。
その言葉に「師匠が?」とアサトが返す。
「…ったく…なんだ?お前は、魔女とどんな取引をしたんだ?」とアルベルト。
「え?…僕はなにも…」と答える。
「…ッチ…。ったく、じゃぁ、お前は、親切心で治してもらったとでも言いたいのか?」と冷ややかな目を向ける、その視線にうつむくアサト。
「まぁ~、何にせよ、治ったんならいいじゃねぇ~か」とインシュアが笑みを見せながら言うと、「…ッチ、まぁ…とりあえず、…そうだな…」と言葉にすると振り返り部屋を後にしようとするアルベルト。
その場を離れる前に…。
「…とにかく…生きられる事になっただけでも…よかったな」と言葉を残し、その場を後にした。
その後ろ姿を見ていた一同。
「まぁ~あれでも、お前の話しを聞いて、一番取り乱していた、ここに来るのもあいつが言わなければ、俺たちも来なかったと思う」とアサトの肩を掴むと軽く握り。
「ほんとに良かった」と言葉を残し、インシュアも部屋を後にした。
システィナは修行をしているようである。
クラウトもこれから修行をするとの事であった。
採血の結果は良好であるが、念のために1日この場で様子を見る事にした。
首の付け根にあった腫瘍も小さくなっている事も確認され、とりあえず、寛解状態であるとの事であった。
再発も考えなければならないが、現状では、血液中の白血病細胞が0%であることから、無いと断言はできないが、可能性は0に近いと言う事である。
インシュアの後ろ姿を見ていたアサトのそばにアリッサが座り。
「本当に良かった…、話を聞いた時には、心臓が止まるかと思ったわ」と言い手を握る。
その手の感覚は冷たく、また、小さく震えていた。
そのアリッサを見て、「ありがとう…。僕の為に…」と笑みを見せる。
「ううん、そんな事無い…」と笑みを見せながらうつむき。
「…ホンと…良かった…」と口元を押さえて嗚咽を始めた。
その状況を見たタイロンがアリッサの肩を掴むと立ち上がらせて、部屋を後にする。
その姿をクラウトとアサトが見ている。
タイロンとアリッサの後ろ姿が見えなくなると、クラウトがそばにきて。
「これからアイゼンさんに連絡をする、みんなを早く安心させたいしな…」とメガネのブリッジを上げて、「もう一つ、話がある」とクラウト。
クラウトの言葉に頷くと「もう一つ?」と聞く。
その言葉に頷き、「…あぁ、アルベルトの件だ」と言い椅子に座る。
「アルさんの…」とアサト。
「あぁ、アルベルトの石化を治せるかもしれないと言う話だ。今、皮膚のサンプルを取りにアルベルトが向かって行ったと思う。ドラゴンの鱗、そして、テレニアさんの血液サンプルもあると言う事だ。僕にも理解が出来ないが、DNAとやらで遺伝子構造を解析できれば、突破口が見つかるかもと言う話だ…」と言いメガネのブリッジを上げる。
アルさんの石化が解けるのか…そう言えば。
エルフは、石化しないと言う話をしていたような…だから…アルさんは…。
アサトは、アルベルトとテレニアが親しげにしていた事を思い出した。
だから二人は…。
「まぁ…とりあえず、アルベルトの件は何とかなりそうな感じだと思う。」と言い立ち上がり、「また…チャンスを貰ったな…」とぼそりと言葉にした。
その言葉に小さくはにかみながら…。
「そうですね…」とアサトは答えた…。
クラウトが言う通り、アルベルトは、石化した皮膚のサンプルをエイアイに提供した、また、血液も採取したようだ。
数年前から『カオス』のポドメアとポドリアンからの依頼で、この問題に対して、エルフを中心とした研究チームを立ち上げて、取り組んでいたそうである。
現在、DNA解析機の修復を行っていて、数か月後には稼働できる見込みと言っていたので、早い段階でなんらかの結果が出ると思うとエイアイは話をしていた。
クラウトが『デルヘルム』へ経過の連絡をした後、修行に入ったようだ。
午後になるとアリッサが、買い物袋を持って帰ってきた。
ケイティとセラにお土産で服を買ってきたようだ。
ニット生地と言っても、特殊な素材を「メリヤス編み」といわれる編み方で、 細い糸で編まれた天竺生地と言う、ニット生地の基本といわれている、代表的な編み方で作られた生地のTシャツや肌着を何点か買ってきていた。
エイアイの話しだと、去年あたりから『オースティア』国に流通を始めているとの事で、まだ数は出ていないが、着ていても違和感のない物であるとの事であった。
夕方にシスティナともう一度出かける事になっているので、アサトにもなにか下着やらを服などを見繕ってくると言っていた。
ジェンスの分もお願いしたら、ちゃんと買ってあると笑みを見せていた。
その事に、システィナだけでなく、アリッサも気配りが出来る人と感じた。
戻ってくる際にインシュアがここに運ばれていたようだ。
アリッサの話しだと、酔って寝ていた所をここの研究生が気付いて運んできたらしい…。
もう…インサンは…。
とりあえず、明日までの時間を適当に潰してくれている事に心を撫でおろしていた。
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