第40話 『ルヘルム地方』の異変 下

 「さぁ、クソガキ…ついて来いよ」とアルベルトが声をかけると、馬を走らせ始めた。

 その後ろ姿を見て、恐る恐る馬の腹を蹴り、馬を走らせ始める。


 この先に必要な事と言われ、馬の乗り方を2時間ほど教えられた。

 とりあえず、走らせる事と止める事、進路に向ける事さえ覚えればいいと、冷ややかな目で、久しぶりにスパルタ教育をされたアサトである。


 とりあえず、形にはなっているとの事で馬に乗る事にした、体調は良好である。

 エイアイも肉腫の塊が無くなっていると、今朝言い、体調が良ければ運動もいいだろうと言う事であった。

 その言葉にアルベルトが、暇を持て余していた事で、馬の乗り方を教えると言う事になったのである。


 出発は昼、3日かけて『デルヘルム』へと戻る予定で帰途に就いた。


 そして…夕刻。

 陽が暮れ始めた赤い大地で、小さな村を見つけ、その村で野営をする事にした。


 「…おい、なんかおかしくないか?」とインシュアが言葉にする。


 たしかに…なにか、おかしい。


 アルベルトは、小さなレンガの壁の向こうを冷ややかな視線で見ていた。

 馬を止めるアサト。

 アルベルトの傍に着くと、その表情がいつになく厳しい感じに捉えられた。


 「アルさん?」とアサト。

 その言葉に反応せずに、村を凝視している。

 「やっぱり…おかしいな…」と言いながらインシュアが馬から降りると、入り口近くにある高い木の柱まで馬を連れて行き、その柱を見上げた。


 そこには、焼かれた国王の旗が、少しの切れ端を残してはためいていた。


 アルベルトはゆっくり馬を降りる、その行動にアサトも馬から降りる。

 「クソガキ…繋いでおけ」と手綱をアサトに渡すと、村の中に入って行った。

 その後ろ姿を見ていると馬車が来る。


 「どうした?」とタイロン。

 その言葉に振り返り小さく首を傾げる、タイロンの横にいるクラウトは立ち上がり、村の中を見ていた。


 壁近くにある馬を係留できる木に馬を繋げると、タイロンも、馬車の馬をその近くにある木につなぎ、壁外から村の中を伺う。


 村の中では、アルベルトが、一軒一軒、家の中を調べている。

 「襲われたのかもな…」とインシュアが、馬を係留したのち、壁を越えて中に入った。

 「僕らはここにいよう」とクラウトが2人の姿を見ていると、アルベルトが、村の端の家を見たのち、その家の向こう側へと姿を消した。

 インシュアも別の家を見ている。

 システィナとアリッサもその場に来て、2名の姿を見ていると、アルベルトが現れ、こちらに向かって手招きをしていた。

 その様子を見て村の中に入る。


 木造1階建ての家が7軒あり、右側に3軒、左側に4軒。

 3軒並んでいる向こうは広い場所になっていた。

 その場に来ると、「やっ」とシスティナが目を覆い、アリッサが眉間に皺を寄せた。

 タイロンが目を閉じ、クラウトはメガネのブリッジを上げている。

 アサトは思わず口に手を当て、そのそばにインシュアが着て、「吐くならどっかで吐け」といいながら、4人を越して、アルベルトの傍に着いた。

 アルベルトは、その場の状況を冷ややかな目で見ている。


 「何があったと思う」とインシュア。

 「…おおかた…盗賊にでも襲われた…と言う口だな」と言い辺りを見わたす。

 インシュアも同じく辺りを見わたすと、「亜人か?それとも…」と言いしゃがみ込み、その場全体に広がっている足跡を、目を細めながら見た。

 アルベルトは、インシュアを見ながら、「…盗賊だな…それも他種族が混ざった…。この数を見ると…皆殺し…ってところか…」と背をむけてアサトらの方へと来る。


 「ここには誰もいねぇ~、今夜は屋根の下で寝るぞ」と言うとその場を後にした。

 それに続いてインシュアもアルベルトの後に着き、タイロンとシスティナ、そして、アリッサが後に続く、クラウトがアサトの傍に来て、もう少ししたら処理しようと言葉を残すとその場を後にした。


 アサトはその光景を黙って見ていた。

 そこには、一つの樽に切断されたゴブリンの頭部が一つ、それが27個あり、その向こうには、焼かれた胴体と思われる炭となった山があった。

 その首は、老人の首もあれば、幼い…子供、そして、赤ん坊の首までさらされてあった。

 その光景になぜか手を合わせて目を閉じる。


 …どうぞ…やすらかに……。


 その行動が意味するのは分からなかったが、自然に体が行っていた。

 これで、失われた魂が安らかになるとは思えないが、自分が今できる行動は、これだけなんだと体のどこかで感じていた…。


 その後、インシュアとタイロン、アサトとアルベルトで頭部を焼くと、穴を掘って、黒ずんだ体と共に灰を撒いて埋葬をした。

 その日は、悪いと思いながらも、もぬけの殻になっている家で夜を越えた。

 翌日、朝食をとると、再び『デルヘルム』へと向かう。


 昼近くになってインシュアが何かを発見した。

 「おい…アル。あれはなんだぁ?」。

 その言葉に視線だけ移す、アサトも目の前に見える者らを捉えていた。


 そこには、真っ白い鎧を着て、国王の旗を掲げ、南に向かって行進している、約20人程の国王軍の兵士が見えた。

 その後ろには、なぜか荷馬車が2台あり、その荷馬車には鉄格子で出来ている檻が乗せられてあった。

 「あぁ…兵士だろう、なにか捕まえに行くんじゃないのか?」とアルベルトが答える。

 「お前!どこ見ている」とインシュア。

 その声に振り返るとインシュアは別の方向を指さしていた。


 その方向へと視線を向けるアルベルト。

 アサトもアルベルトが見た方向を見ると、そこにも国王軍の旗らしきモノらが北に向かって進んでいた。

 そこにも馬車が見えるが…、その中には…誰かが乗っているのがわかった、ただ、誰が乗っているかはわからないが、かなり多めに人影が見えていた。


 冷ややかな視線を向けたまま進むアルベルト。

 アサトは、前を向き進むべき方角をしっかり見据えた。

 インシュアは、辺りを見ている。

 目の前にいるアルベルトが舌打ちをしているのが分かったが、なぜ舌打ちをしているのかは分からなかった…。


 夕刻、再び村が見えて来た。

 そこに寄ると言う合図を送るアルベルト。


 しばらく進み、村が一望できる場所に来ると…、インシュアが「おい…アル」と声をかけた。

 「あぁ…」と言いながら馬を降りると、再びアサトに手綱を渡し、村の中に入る。

 馬を係留できる場所に馬を繋ぐと、アルベルトの姿を目で追った。


 すると、再び手招きをしている。

 クラウトがそばに来て、「いやな予感がする」と言いながら村に入った。

 呼ばれるがままに、アルベルトのそばに行くと、やはりそこにも斬り放された頭部が、樽に置かれてあった。

 今度は色々な種族が混ざっている。

 数は32体。


 目を覆っていたシスティナが何かに気付き、近くにある荷馬車へと向かった。

 その中を見ていると、「アルさん!」と言葉を発する。

 その言葉に一同が行き、システィナが見ていた荷馬車の中を見た。

 そこには、体を寄せ合っている2人のトラの亜人の子供が、不安そうに耳をたおして、システィナらを見ていた。

 システィナは、笑みを見せて子供らに語り掛ける…。


 その状況を見ていたアルベルトは、村へと視線を移し、大きく見わたして…。


 「…ッチ、一体何が起きているんだ…」と小さく、そして、重く言葉にした…。

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