第41話 知らされる事柄と最も危険な力 上

 馬車にいた子供らを保護したアサトら一同は、その夜は、もぬけの殻となった村で宿泊をする事にした。

 子供らは、歳は、少女の亜人がリズと言うなで6歳、弟の亜人がリバウドと言う名で4歳である。


 状況を聞こうとしたが、弟の方が恐怖からか泣き始め、姉も口をつぐんでいた。

 インシュアらが遺体の処置を行い、アルベルトが村中を捜索していた。


 「目的が分からないな…」とインシュア。

 アルベルトは腕組みをしながら考えている。

 クラウトも、今回だけは皆目見当がついていないようだ。

 アサトは、エイアイからもらった薬を飲み、3人を見ている。


 「あの…兵隊は、何を乗せていたんだろう」とクラウトが言葉にする。

 その言葉にインシュアやアルベルトも口をつぐんだ。

 多分、クラウトと同様に見当がついていないのだろう。


 村の一つに男5名が集っている。

 その建物の前に馬や馬車を持ってきていた。

 家の一室に子供らを寝かせたシスティナとアリッサがこの輪に加わる。


 「寝たのか?」とインシュア。

 その言葉にシスティナが頷き、「何度も目を覚ますの…多分、何かを思い出していると思うんです…」と言い、キッチンへと向かった。

 アリッサが椅子に座り、「あの怯えようは…尋常じゃない事があったんじゃないかな」と言い、テーブルにあった飲みかけのエールを口にする。


 「あぁ…おれもあの現場を見たが、どう見ても殺害の現場はあそこだ…村人を一か所に集めている」と言い、一同を見わたすアルベルト。

 「いずれ…ただならぬ事が起きているが、それが俺たちに降りかかるかどうかは、分からないな」と目を閉じた。


 「あの子らは?」とアリッサ。

 「あぁ…ここにおいては行けない、帰ったら俺からアイゼンに報告しながら、このガキどもの処遇を頼むつもりだ」と目を開けて、アリッサを見ながら言葉にした。

 その言葉を聞いて、「そう、良かったわ」とアリッサが胸を撫でおろす。

 「とにかく…この地方で、ただならない事が起きている事は確かだと思う」とアサトを見て、「俺らが一緒の内は、勝手に動くなよ」と言葉にした。

 その言葉に小さくうつむくアサト。


 翌日、アサトら一行は、『デルヘルム』への帰途についた。

 赤い大地を抜けると、『デルヘルム』までは時間はかからなかった。

 赤の大地を抜けたところで、再び兵士らを見かける。

 今度は、アルベルトが馬を止め、その一団を冷ややかな視線で見ていた。


 やはり檻をつけた馬車が2台、その一団の後方を進んでいる。

 「…ッチ」と舌打ちをすると再び進み始める。

 その1団の他にも2つの兵士の1団を確認。

 その1つには、2つの馬車の檻に多くの亜人らが入れられているのを見た。


 『デルヘルム』南門へと続く道の林前には、多くの馬車が止まっている。

 その馬車には布がかぶされていた。

 アルベルトは、そこでも止まり、その場所らを見ている。

 インシュアもいつになく真剣な視線で馬車周辺を見ていると、クラウトが立ち上がり、同じように見始めた。


 「…ッチ。あれはどう見ても、奴隷商人じゃないか…」とアルベルト。

 「そうだな…イヤな連中だよ」とインシュアが言葉にする。

 その二人の会話を聞いていたアサトは、馬車の方向を見た。


 そこには、荷馬車に大きな檻であろうか、高いモノがあり、その中を見せないように布が覆っていた。

 馬車の周りには、見るからに野蛮そうな格好の者がたむろしている。

 中には洗った事のないような髪をしている者や、茶色にすすけ、所々に穴のあいている服を着ている者もいた。

 靴もはだしに近いモノを見につけ、エールを煽っている姿が見える。


 その者らは、人間族以外にも亜人やマモノの合いの子イィ・ドゥらしき姿も確認できた。

 アルベルトは、クラウトを見る。

 クラウトは小さく頷き、その頷きに対して前を向いたアルベルトは、ゆっくり馬を進めて『デルヘルム』の南門へと進んだ。


 門に着き、入門の手続きをしていると、助けた亜人の子供らの事を聞かれたが、冷ややかな視線でアルベルトが説明すると、衛兵はなにも言わなくなり、すんなり通してくれた。

 インシュアは、さっすがぁ~と声を上げている。


 まぁ…あの凍り付くような視線で見つめられたら…。


 馬車を仕舞うとパイオニアへと向かう、その道すがらに、懐かしい人が声をかけて来た。


 「おい!アル!」

 その言葉に冷ややかな視線をおくるアルベルト。

 そこには武器屋のウィザがいた。

 「なんだ、カナモノヤ。」とアルベルト。

 「相変わらず不機嫌そうだな」とがはははと笑う。


 「あぁ。で…何かようか?」と聞く。

 その問いに一同を路地まで連れて行き、「おう。そうだ、」と言い一同を見る。

 アサトも視線が合ったので小さく頭をさげた。

 よく見るとクラウトとアリッサ、そして、システィナも頭を下げている。


 もしかして、ウィザにレクチャーされた口かな?と少し思った、が、ウィザはニカニカしながら一同を見ているだけであった。


 「それでカナモノヤ。何だ?」とアルベルト。

 「あぁ…最近な、どうも、ここら近辺で亜人の奴隷狩りが横行しているようなんだ」と言葉にする。

 「奴隷制度は無いはずでは」とクラウト。

 その言葉にクラウトを見て、「あぁ…つい何週間か前まではな、今は、その奴隷が認められている」と言い、辺りを見わたし、「聞いた話だが…、どうも兵士らがマモノを捕まえているようだ」と小さな声で話した。


 「マモノ?」とインシュア。

 「あぁ、そうだ。なんかな…王都でなにかあったようだ。」とウィザが言葉にすると、「とりあえず、巻き込まれないように気をつけろよ」とニカニカした笑みを見せた。

 その笑みに舌打ちをして、「行くぞ!」とアルベルトが言葉を発し、大通りに出た。


 「奴隷ですか?」とアサト。

 クラウトは顎に手を当てて何かを考えている。

 システィナは、子供たちと手をつないで歩いていると、「アルさん」と名前を呼んだ。


 その言葉に立ち止まりシスティナを見る。

 「この子達は…」とシスティナ。

 アルベルトはシスティナを見てから子供らへと視線を移す。

 その冷ややかな視線にシスティナの後ろに隠れる子供ら。


 「あぁ。そのままでいい、なんかあったら、俺が対応する」と前を向き進み始めた。

 「まぁ…、アルに喧嘩売るなんて、命知らずの者は、この街以外のもんだけだからな…」とニカニカしながらインシュアが、一番後ろから言葉を発していた。


 まぁ~そうでしょうね…。


 「お帰りぃ~」とアイゼンの部屋に入ったアサトらは、サーシャの一言で迎えられた。

 腕に抱きしめられたアサトは、苦笑いを浮かべる。

 アイゼンもそばに来ると、目頭を緩めてアサトを見ていた。


 「エイアイから聞いた時は…ホンとに身が凍る思いだったわ」とサーシャ。 

 「あぁ…とにかく良かった」とアイゼンが言葉にする。


 「ありがとうございます…と言うか、本当に心配かけてすみません」とアサト。

 「病気なんですもの…仕方ないはこれだけは…」と言い体を離すとアサトを見て、「あなたまで失ったらと思ったら…」と涙を流し始めた。

 「おぃおぃ…親のつもりか?」とアイゼン。

 「えぇ…可愛い息子みたいなものでしょう…ナガミチに託されたんだから」とサーシャが言葉にして、再び抱きしめた。

 「まぁ~そうだな…」とアイゼン。


 「…ッチ。そこいらにしておいてくれ、こっちが気持ち悪くなる」とアルベルトが言葉にすると応接セットへと向かった。

 「…あっちは、万年反抗期ね」と言いながら、体を離して、「お帰り、今、テレニア達をアルニアが迎えに行っているから」と笑みを見せた。

 「…そうですか…」とアサト。


 修行中であることは判っている、…ので、なんか恐縮してしまうな…。


 「…んで?アイゼン。その表情はいただけないな」とアルベルトが言葉にする。

 その言葉に小さく目を閉じ、「…あぁ、帰って来て早々だがな…」とアイゼンが返した…。

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