第12話 『デルヘルム』への帰還 下
「あぁ…そうだ。あと…メインアタッカーがいないだけだ!」と言いながら冷ややかな視線をおくり進んでくる姿。
「おい!アサト!無事だったか?みんなは!…シスちゃんは!」とインシュアがアサトの肩を掴むと大きく揺らして言葉にする。
「あ…あの……」とアサト。
その掴んでいる手に手を当て、「はい…みんな…」と言い振り返る。
馬の蹄の軽快な音と共に車輪が土と交わる音が大きくなると、林から馬車が出て来た。
その馬車を見て。
「お…おお…。」と駆け出すインシュア。
その姿を見てから振り返り。
「只今、帰ってきました」と大きく腰を折り頭を下げる。
「あぁ…」とアルベルトはアサトの前に立ち、その隣に、「おかえりぃ」とテレニアが言葉をかけてついた。
アサトは頭を上げて二人を見る。
「きいたわよ…色々あったみたいね」とテレニアが優しく言葉をかけて来た。
「…ったく、そのおかげでこっちは大変だ!」と相変わらずの口調。
…懐かしいな…。
駆け寄るインシュアに気付いたチャ子も馬車へと向かう。
タイロンが馬車を止め。
「インサン…帰ってきました。」と笑みを見せると…。
「男には興味はない!シスちゃんは?」と言葉にした。
「興味ないって…」とタイロン。
クラウトは、メガネのブリッジを上げてアサトとアルベルトを見ている。
インシュアが馬車の後ろに着くと、その扉がゆっくり開く、そこに立っている青い魔法使いのローブに同じ色のとんがり帽子を見ると…。
「シスちゃん!よかった!」と言うと、いきなりシスティナの脇に手を入れ持ち上げると、グルグルと何回か回して地上にそっとおろし、「これからハグするから…訴えないでな!」と言葉にする。
その言葉に、システィナは頬を赤らめて小さく頷く。
その行動を見たインシュアは、顔をぐちゃぐちゃにしながら。
「シスちゃん…よかった!お帰り!!」と、大きな声を発しながらシスティナを抱きしめた。
「インサン…痛いです…」と苦笑いを浮かべるシスティナ。
馬車の辺りで、「なんかいる!」とチャ子が叫ぶと、鼻をクンクンさせ…、クンクンさせ……クンクン…させて、大きく飛んで馬車の中に入ったと思ったら、一度外に出てきて、アサトが見える場所まで来ると、「アサト!なんか中にいる!」と叫ぶ。
アサトは振り返りチャ子を見て、「?」と首を傾げる。
「アサト!なんかいる!なんかいる!」と指を指している。
そのチャ子に向かって、「…なにもいないよ」と声をかけると、「今!出すよ!」と言い姿を消した。
馬車の入り口から不思議そうな顔でチャ子を見ているアリッサとケイティ。
チャ子は…その2人に目もくれずに中に飛び込むと…。
「おい…クソガキ。お前、なに連れて来た」とアルベルトが冷ややかな視線を馬車に送って言葉にした。
チャ子が入って間もなく、馬車から大きな物音となにやら騒がしい声が聞こえてくる。
そして…馬車からフードを被ったモノ…セラが飛び出してくると、こちらに向かって進んでいるクラウトの傍に駆けて行く、その後ろをニヤニヤしながら追いかけるチャ子…もしかして?
セラがクラウトのそばにくると、クラウトを盾にチャ子から逃げる。
背中越しに右から出ると、クラウトの真正面に立ったチャ子は、そのセラの前に出る。
セラが左顔を出せば、その前に出る。
何度か、その行動をとっていた2人であったが、セラは踵を返したように駆け出すとアサトの元に来て、目の前にいるアルベルトの前に立つと…。
少し止まり…、アルベルトをフードの奥からその姿を見て、シュっシュッと音を出しながら外套の中でなにやら手を動かしてから、右手を出し、その手の人差し指と中指を立て、開くとVの字をつくり、そのVの字を横にするとゆっくり右目にもってきて…。
「おいチビ狐…なんでおまえここにいる!」と冷ややかな言葉でセラに聞く。
アルベルトの言葉を聞いたセラは制止する。
…そして、ちょっと間をあけてから、再び動かし始める…。
「おい、チビ狐。お前の混沌は聞き飽きた。説明しろ!」と言葉にすると、V字を作っていた手を下げてぐったりとうなだれる。
「それをこの子に説明させるのは無理と言う事ではないか?」とクラウトがそばにきて言葉にした。
「…ッチ。ならクソ眼鏡。お前が説明できるんだな」と冷ややかな視線をおくる、その視線にメガネのブリッジを上げ、「あぁ…まずは、アイゼンさんに報告…」と話しているさなか、「きゃ!」と悲鳴を上げるセラ。
セラを見るとチャ子が抱きつき、頬を摺り寄せていた。
それから、地面に倒れるとグルグルと周り、「やめぇ~やめぇ~」とセラが悲鳴を上げる。
キャッキャッと喜びの声をあげているチャ子。
その二人に、「おいネコ娘。そろそろやめろ!」とアルベルト、その言葉にチャ子は止まり、横になった姿勢でアルベルトを見上げた。
冷ややかな視線をおくるアルベルト。
その視線を黙って見つめているチャ子。
チャ子の手は離れないし、放そうとしていない。
しばらく視線を合わせていると、「わかったネコ娘。とにかく、紹介してから好きにしろ!」とオデコに手を当てて言葉にした。
チャ子は一度フードのセラを見て、セラを放すと立ち上がり、手を伸ばして、「あたしチャ子!」とニカニカしながら言葉にする。
セラは、フードの奥からチャ子を見て、差し出されている手を見ると、「私はこの…」。
「チビ狐…それはいい!」とアルベルト。
その言葉に、「…セラ」と言いながらチャ子の手を取って立ち上がった。
立ち上がったセラのフードをチャ子が外すと、「え?」とテレニアが声を発し、その後ろにいた4人も目を見開いた。
そこには、銀髪でチャ子と同じく大きな耳を持ち、小さな鼻と長細い髭が数本ある。
狐のイィ・ドゥであった。
その姿を見たチャ子は、目を見開くと…大きく笑みを浮かべて、「セラ!行こう!」と言い手を取る。
その手に、「え?」とセラ。
「かあさんとこ行けばおやつ出るから!行こう!」と言い駆け出そうとした。
セラは抵抗してクラウトを見る。
クラウトは、メガネのブリッジを上げてからアサトに視線を移動させると、アサトは笑顔で頷いた。
その行動を見たセラは小さく頷き、引かれるがままにチャ子について行く…。
「セラ…かあさん怖いけど。ごはんおいしいよ!干し肉好き?なに好き?キャラって言う甘い飴しっている?インシュアのツケでいっぱい食べれるから!」と何やら話しながら『デルヘルム』へと走って行った。
「大丈夫なんですか?この辺?」とアサト。
「あぁ…誰からのおかげで狩りの対象がいなくなった。ネコ娘は察知能力が高いし、チビ狐は、イモゴリラ持っているから、ハンティングベアーあたりなら大丈夫だろう」とアルベルトが言葉にした。
システィナとタイロン、そして、インシュアが向かってくる。
インシュアがアリッサとケイティとなにやら話していた。
どうやらシスティナが、インシュアに紹介を済ませているようだ。
その5人を見ながら…。
「アルベルト」とクラウト。
その言葉に冷ややかな視線を向ける。
「…お前に、あとで僕とアサトで話がある」と言葉にする。
その言葉に、「…ッチ。まったく…余計な事を…」と言葉にしながら5人へと視線を移した。
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