第13話 久々の『デルヘルム』 上

 一通り紹介が済む。

 そこで判明した事が一つ。


 アリッサとケイティが、以前組んでいたパーティーにいた剣士が、アルベルトらといた。

 アリッサとケイティが驚いていたが、話を聞くと、パーティーは、アリッサらがアサトらと同行をした日に解散をしたようだ。

 魔法使いの男は、『ゲルヘルム』で仕事を見つけたようであり、アサシンの男は、別のパーティーに入ったようであった。


 剣士の男、名前は『ケビン』と言っていた。

 バンダナを頭に巻き、短めに切った黒髪に、優しい表情をしている男であった。

 そのケビンは、商人の馬車を乗り継いで『デルヘルム』に来たらしい。

 アサトらの噂を聞いていたケビンは、パイオニアに入り、今はインシュアを師匠として、一から狩猟者への道を進んでいるとの事だった。


 自分は弱い…だから、強くなりたい。と言っているようだが、その強さを履き違えなければいいが…とインシュアが言っていた。

 インシュアも人に教えると言う事はどうも苦手であるが、アサトへ修行をしていた事をただやっているだけだと付け加えていた。


 問題は、鍛える事は誰にでもできるが、心の方が問題だとアルベルトが言っている。


 剣技や戦い方、基礎修行は自分らがナガミチから教えられ、アサトの傍にいた事で分かっているが、肝心な心や気持ちを鍛えると言う事、ナガミチのように道理を知っている訳では無いし、お互い体力しか自慢が無いポンコツ狩猟者だから、その点は、アイゼンに任せようと言う話をしているようである。


 ただ、この事を知らないのは、アイゼンとサーシャだけであり、どう持って行くかを最近は考えているとの事だった。


 チャ子は、アサシンの職に就くようである。

 アルベルトとテレニアがついてくれるならと、サーシャが許可をしたようだ。

 でも1週間のうち2日は、座学を受ける約束をさせられたようである。


 チャ子は…やっぱり逃げているようだが、アルベルトが捕まえて連れて行っていると言いながらインシュアが豪快に笑っていた。

 よほど面白いのだろう、涙を流して笑っていた。


 盾持ちの男もインシュアの弟子のようだ、3週間前に誘われた者で、その時に一緒に来た者から誘われなく、街をもうろうと歩いていた所をポドリアンが拾ったみたいだ。

 センスは無いが、一生懸命で健気だとインシュアが言っている。


 どうしても生きて行く力をつけさせたいとも付け加えていた。


 テレニアは相変わらず、2人の神官見習いの師匠のようである、まぁ…ほとんどおしゃべりで1日が終わるようだが…。

 このパーティーは、盾持ちの少年…そうそう、名前はトルースで、少し太っているが、体は大きく、目も優しい金髪の少年。


 このトルースがタンクで、アタッカーがケビン、サブアタッカーがチャ子で魔法使いのレニィ。

 そして、神官が、ベンネルと言う浅黒い肌を持つ女の子と、オースティと言う、色白でそばかすの目立つ少女である。


 レニィが一応、作戦を立てる事になっているが、その技能に精通した者がいない事で悩んでいたようである。

 さっきも涎をたらして寝ていたほど…軍師には向いていない性格だとアルベルトは呆れながら言っていた。


 最後に“スカン”と言うパーティーが、アサトらを訪ねてきて、パイオニアに入っていると言っていた、今は他の先輩狩猟者パーティーと一緒に行動しているようである。


 “スカン”…懐かしい。

 旧オーパル鉱山で会い、オークの強襲を一緒に受けた。

 少しだけ仲間になった者らが…この地に…。


 そのパーティーの戦術は完璧なほど洗練されていて、いつ卒業試験をしてもいい程であると、話を聞いているとアルベルトはクラウトを見て言っていた。

 それもそうであろう、基礎的な戦術をクラウトが教え、あとは自分らでアレンジをした結果なら…


 スカンらも頑張っているんだ…。


 『デルヘルム』西南の門に入る道を進む、500メートルのこの道を通って遠征に出たのは約3か月前。

 予定よりかなり早い帰郷になったが、懐かしさで胸がいっぱいになる。

 木漏れ日や道の端に茂る藪に木々…。

 ナガミチと歩いた道。

 アルベルトに叱咤されながら歩いた道、チャ子の背中を見て通った道、背中にインシュアの気配を感じながら通った道…、そして、3人の仲間、クラウト、システィナ…そして、タイロンと通り、遠征に出た道…。


 それが…今日は…


 アサトは振り返る。

 馬車に乗っているタイロン、その隣にはトルースが座り、なにやら話をしている。

 盾持ちの役割とかかも知れない、たまにタイロンが身振りを入れているのが見える。

 馬車の前をシスティナとインシュアが歩いている、そのそばには、アリッサがなにやら話、小さく笑っていた。


 そう言えば、アサトらが出てから、インシュアが酒をやめているようだと言っていた。

 どうも色々心配で、なにも手が着かない様子だったらしい、それを見かねたサーシャが、アルベルトと同じく師範資格をむりやり取らせて、師匠みたいなことをさせていると言う事であった。


 そもそも心配しているのは、アサト5%、タイロン10%、クラウト5%、システィナ80%の気持ちだと言っていたが、テレニアは、ほとんどシスティナの事しか考えてないようだと笑って言っていた。


 その言葉に顔を赤くして怒っていたが…もしかして?


 ケイティとジェンスは、ケビンを挟みながら進み、そのそばには、テレニアの弟子、オースティとベンネルが、時々話に加わっていた。


 アサトの前をクラウトとアルベルトが並んで歩いている。

 たまにアルベルトの舌打ちが聞こえると、なにやら恐ろしい言葉を並べていた…。


 相変わらずですね…。


 南西の門を潜ると、ケビンらは、アルベルトの指示で、インシュアを先頭に農場へと修行に向かった。

 話を聞くと、アサトが行っていた場所はかなり整備され、牧場主から許可を得て、練習場なる場所を作り上げたようである。

 パイオニア専用なので、その噂を聞き、新人狩猟者や中級狩猟者らがパイオニアに転入して来たり、また、ウィザの助言を聞いて、パイオニアを目指してくるようであった。

 パイオニア自体、この街で2番目に大きなギルドになり、また、オークプリンス討伐は、パイオニア所属チームとの話しも加わって、指名の依頼も日増しに増えているとの事であった。


 しばらく進むと、懐かしい噴水広場に着く。

 その噴水広場にある、噴水の壁にチャ子とセラが座って何かを食べていた。

 近づいて話を聞くと、ジーニアの店に行き、どうやら干し肉を食べて来たらしい、インシュアのツケでいいと言われたので、干し肉と、キャラと言う棒についた飴を買い、ここで食べていたようである。


 もうすでに打ち解けたのか、チャ子が矢継ぎ早にセラに話している。

 セラも笑いながらその話を聞いていた。

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