第14話 久々の『デルヘルム』 下

 これからギルドに行くと言うと、チャ子は頷き、再びセラの手をとって走ってゆく。

 同じ年頃のイィ・ドゥ同士…チャ子はかなりうれしいのだろう…。

 その視線を恨めしそうに見ている視線を感じた。


 …ケイティ姫だ…。


 ッチっと舌打ちをしている。

 妹として可愛がっていた子を、あっさり持って行かれたのが頭に来ているのか、それとも、おいしそうな食べ物を食べていたのに頭に来ていたのか…。

 ケイティ姫の頭の中は、予想がしづらい…。


 ギルド広場に着き、ギルドパイオニアの建物まで来る。

 建物に入ると、中には、午後になっても多くの狩猟者がいて、飲食をしている。

 話によれば、すでに依頼を終えたパーティーと、これから夕刻から夜にかけての依頼、また夜中の依頼などを依頼されたパーティーらであると言う。

 最近では、依頼も時間が関係ないようだ。


 『ゲルヘルム』大使、ベラトリウムの要請をこの街の大使が受け、南正門の整備を行っているらしい。

 南門から草原に抜ける道を整備しているようである。


 また、その道を抜けた草原に『セーフ区画』の整備を行っている話をしていた。

 この区画は、『ゲルヘルム』付近にある、『パインシュタインの遺跡』の縮小盤であり、その区画では、月2の割合で市場を行うと言う話である。


 この市場は、金や銀を使わないゴブリンらに、その金や銀を使う方法を知ってもらう為の市場のようであり、また交流の場を設け、お互いの技術などを交換できる場にでもなればいいとの事だった。


 ベラトリウムの思想は、着実に進んでいるようである。

 その為に、南門から林を通ってその場に繋がる道を、夜間、レンガを敷いて整備をしているようであった、依頼は、その工事の警護である。


 二階に続く階段を登ると、チャ子とセラがサーシャと話していた。

 セラはお辞儀をしている。

 アサトらの気配を感じたサーシャが向き、笑みを見せて、「お帰り、待ってたわよ…みんな」と声をかけて来た。

 その言葉に大きく頭を下げ、「只今、帰ってきました」とアサト。

 その行動に、一同も頭を下げる。


 一同を見わたしたサーシャは、笑みを見せながら

 「たくさん、仲間を増やしたのね」と言い、廊下へと誘った。


 サーシャを先頭に廊下を進む、そして、アイゼンの部屋に着き、一つ深呼吸を…と思っていると、いきなりチャ子が扉を開けてセラを連れて中に入った。

 面を喰らった表情で、机でなにか書き物をしていたアイゼンが顔を上げている。


 「アイゼンのおじさん、見てみて!チャ子の友達!セラだよ!」と言い、アイゼンの前に進む、「?友達?」とアイゼン。

 「ウン…」と言うと、なにか思い出したかのように、ハッとした表情で。

 「そうだ!アサト!帰って来た!」と言い振り返る。


 アサトは苦笑いを浮かべて、「すみません…」と言いながら中に入った。

 「うむ…」とアイゼン。

 それからゆっくりセラに視線を向け、「チャ子は強引だから友達は大変だぞ」と大きく笑みを見せ、「チャ子をよろしく…そして…」と言い立ち上がり、入り口にいるアサトの仲間面々を見て…。


 「…わたしが、このギルド、パイオニアのマスター、アイゼンだ!よろしく」と言葉にした。


 その言葉に小さく頭を下げる、アリッサ、ケイティ、そしてジェンス。

 チャ子はセラを連れて、アイゼンの部屋奥にある、書物が並んでいる場所にあるテーブルに向かって進で行った。

 その後ろ姿を見てから、再び、アサトの仲間に視線を移し、「どうした?入ってきていいぞ!」と言いながら、応接セットのある方へ手を差し伸べた。


 「それでは…」とクラウトが、一同を連れて差し伸べられた方へ向かう。

 そこには、見慣れたソファーがあり、奥のソファーにアルベルトが座ると、その隣にアサト、ジェンスと腰を下ろした。

 向かいの長いソファーにアリッサ、ケイティ、システィナが座ると、一人掛けのソファーにクラウトが腰を下ろす。

 アリッサらが座ったソファーの後ろにタイロンがたっている。

 そのタイロンの背中を何度か軽く叩きながら、上座の一人掛けのソファーにアイゼンが腰を下ろした。


 「チャ子、セラちゃんと下でなにか食べておいで」とサーシャが声をかけると

 「甘いケーキ食べていい?」と聞いて来た。

 「1つだけよ!」と言うと、大きく笑みを見せて、再び、セラの手を取り部屋から駆け出して行った。

 その姿を恨めしそうにみている。


 …うちのお姫は…どっちに頭に来ているのか…。


 「遠征はどうだった?」とアイゼン。

 「ハイ…」と言葉にすると、クラウトが立ち上がり。

 「まずは…仲間を紹介します。」と言い、アイゼンの席に近い長椅子に座っている…、「ゲルヘルムで一緒にオークプリンスの討伐を行った、アリッサです」とアリッサを紹介する。

 アリッサは立ち上がり、「私は、アサト君に助けられました…。よろしくお願いします。」と頭を下げた。


 「うむ…話は聞いている」とアイゼン。


 「隣もオークプリンスの討伐を一緒に行いました、ケイティ」と紹介する。

 「は…はじめまして…ケイティです。」とちょっと緊張しているのか、上ずった声をだしたケイティ。


 「ははは…そんなに緊張しなくてもいい、取って食おうとはしないから」と笑みを見せるアイゼン。


 「お…」と言うと立ち上がり。

 「おれは…ジェンス。セラの護衛で仲間になりました。よろしくお願いします」と頭を下げるジェンス。


 急な自己紹介に、少し身を反らせて驚いた表情をしたアイゼンだったが、「そうか、ジェンス君…よろしく」と笑みを見せた。


 「ハイ!」と声を上げ、腰を下ろす。

 「それじゃ、皆さん。よく無事に、この『デルヘルム』まで、帰って来てくれました。そして…よく仲間になってくれました。私がチャ子の母、サーシャです」と一礼をするサーシャに、アリッサらは立ち上がって頭を大きく下げた。


 「ま~ま~、かたっ苦しい挨拶はここまで、これから君たちもこのギルドの一員。ビシバシ働いてもらうよ、なっ、クラウト君」とクラウトに視線を移す。

 その視線を受けたクラウトはメガネのブリッジを上げ。

 「はい」と答えソファーに腰を下ろした。


 「ジャンボ、君はただでさえ大きいのだから、椅子を持ってきて座ってくれないか?」とアイゼン。

 その言葉に、頭を掻きながら、先ほどチャ子らがいた場所から、椅子を持ってきて腰を掛けた。


 一同をアイゼンが見る。


 「『オークプリンス』を討伐したと言う話には、こちらも驚いたよ」とアイゼンが言葉にする。

 「あぁ…」とアルベルト。

 「その『オークプリンス』ってのが、どんなのかは知らないが、かなり厄介な化け物とは聞いていた」と付け加えてクラウトを見る。


 「あぁ、かなり…と言うか」と言い、アイゼンを見て、「見ますか?『オークプリンス』…」と言葉にすると、アイゼンの目が細くなった。

 「ほぉ?なんだ。首か何かを持ってきているのか?」とアルベルトがたずねると、「お前も分かるだろう、セラだよ…彼女の手には、オークプリンスがいる」と視線をアルベルトに移した。


 「…ッチ」とアルベルト。

 「そうか…」とアイゼンが言い。

 「あの子は、銀狐の血を引いている子で、オークプリンスは召喚石の保有者だったのか…」と付け加えた。


 その言葉に頷くクラウト。


 「そして…」と付け加え…。

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