第27話 それぞれの覚悟 上
その後…、エイアイから状況を説明して貰った。
アサトが倒れたあと、警戒エリマキと言う”トカゲ”が、アサトらを発見して、『ラッシア』から救護隊が駆けつけたようである。
警戒エリマキとは、『ラッシア』周辺、約30キロメートルに生息するトカゲであり、そのトカゲを調教して、『ラッシア』周辺でケガや病気、助けを求めているモノを発見、連絡をする生き物のようである。
その警戒エリマキは、”リザードマン”と言う種族が、この『ファンタスティックシティ』で調教をしているようだ。
生息数は10万はいるであろうと言う事であった。
その後、運ばれてきたアサトを、『ラッシア』に常駐する、エイアイ認定の医師が診察して、この病気ではないかと言う事を、この街に報告したようである。
その報告方法は…秘密のようであるが…。
その後、『ファンタスティックシティ』へと移送して、到着後、採血や胸部レントゲン。
MRIに骨髄検査などを経て、この街にある病理センターで、一次診断をした後、現在2次審査…いわゆるセカンドオピニオンと言う、まったく関係のない医者が診断をしていると言っている。
ただ、病気の診断権はエイアイにあり、最終診断はこのエイアイによるとの事であった。
『急性骨髄性白血病』について説明をしてもらった。
この病気は血液のがんで、急性とは、急激に発症して進行し、診断後すぐに治療を開始する必要があると言う事である。
血液にはさまざまな細胞が含まれ、骨の中にある骨髄と呼ばれる場所で主に作られ、骨髄の中で白血病細胞(がん細胞)が異常に増殖することで、正常の血液細胞を作るのが難しくなり、そのため、血液細胞が不足しさまざまな症状が起きると言う。
血液細胞の一つである白血球は大きく骨髄性とリンパ性に分類され、骨髄性の白血球ががん化するため、骨髄性白血病と呼ばれるとの事。
アサトは、数年前にこの病気を発症していた可能性があると言う。
その時に化学療法(抗がん剤治療)をして寛解導入療法という、治癒を目指した化学療法、体に病原菌を殺す薬を注入する治療を行い、一度、完全寛解状態、言わば治ったような状態になった模様であったが、すこしだけ白血病細胞が残っていたようであると言う事で、実際は、多分、この世界に誘われる前は、寛解後療法…、治ったが、万が一の為に、病気の再発を防止するための治療を行っていたのではないかと言う事であった。
この病気を治す為には、もう造血幹細胞移植しかないとの事であった。
造血幹細胞移植とは、正常な血液をつくれなくなった患者に、造血幹細胞が含まれる臍帯血や骨髄を移植して正常な血をつくれるようにするために、他の者から造血幹細胞をもらい、その造血幹細胞を移植…すなわち、アサトの体に取り込む事であった。
ただ、移植と言っても簡単にはいかず、近親者でも適合するとは言えない、なので、近親者のいない狩猟者は、他種族…言えば可笑しいが、近親者ではない者からの移植に頼らなくてはならない状況であり、その検査を数十万もの者がしているのであれば可能性があるが、他民族の者が近くにしかいない現状を考えると、この世界での移植は困難であると言う事であった。
仮にも移植が出来たとしても、生存確率は、近親者よりも悪く、3年が最長ではないであろうか…と言う事であった。
「と…いうことは…僕は…死ぬ…んですね…」とアサト。
その言葉に「あぁ…」とエイアイ。
「そうですか…」と力なく答える。
死ぬの意味は…終わりであって…死なない為に今まで来た自分が…おかしく思える。
「緩和ケアの準備は整ってあるが…病気が病気だから…ここに居てもらった方がいい。一応、わたしが作っておいた抗がん剤…と言っても、この世界で同じ成分と思われるモノだが、その成分を調合している薬がある…まだ、臨床には至ってないが…それを明日から君に注入して様子をみようと思う。これで進行が止まればいいのだが…、その薬の効果を高めるためにこの無菌室で生活をしてもらうよ」と言葉にした。
「もう…外には…出られないのですね…」とアサト。
「残念だが…」と言葉にするエイアイ…。
…おわったんだ…この世界の冒険…旅…戦いが…。
なんだ、あっさり終わるモノだな…。
アサトは、目の前にある両手の指を絡め合わせながら思っていた。
「…先生…」とアサト。
「ん?」とその言葉にアサトを見るエイアイ。
「みんなと…話せますか?」と聞くと、エイアイは窓の向こうに居るシスティナらを見てから、「そうだね…君が話したいのなら…」と言い、ラオハーを見て頷く。
ラオハーはエイアイの行動を見ると、近くにあった、大きな黒いモノをつけている車輪を2個と、小さな車輪が前に2個付いている椅子のようなモノを持ってきた。
そのモノを不思議そうにアサトが見ていると、「これか?」とエイアイ。
その車輪がついている椅子の後ろにある突起物に手を当て、「これは
その言葉を聞きながらラオハーに付き添われてその椅子に座った。
エイアイが窓の傍にアサトを連れてきて、「あとはラオハーに任せてもいいかな?わたしには、君以外にも見なきゃならない患者がいるから」と聞いて来た。
その言葉に小さく頭を下げて、「ありがとうございました、僕は大丈夫です」と返す。
その言葉を聞いたエイアイは、一度システィナらを見てから、この部屋から出る扉へと向かった。
窓の向こうに居るシスティナとタイロン、そして、クラウト…。
不安そうなシスティナがいて、タイロンも心なしか表情が強張っている。
クラウトは、窓に腕を当てて見ていた。
なんて話しかけたら…。
「アイゼンさんには連絡しておいた…」とクラウトが言葉にした。
その言葉にアサトは小さく微笑む。
「アサト君…わたし…ちゃんと修行するよ」とシスティナ。
その言葉に「修行?」と返す。
システィナは頷き、「エイアイさんが教えてくれたの…わたしとクラウトさんは、今までとは違う魔法を習得する、出来るんだって!」と言い、泣きそうになっている目を大きく閉じて笑みを見せた。
「あっ。そうなんだ…」とアサト。
「そうだ、それは
「そう…ですか…」とアサト。
その言葉に、「だから!負けないでアサト君!病気になんて!」とシスティナが大きく叫ぶ。
「そうだ!俺たちは行くんだろう!アブスゲルグに!」とタイロンが腕組みを外して言葉にする。
その言葉にうつむくと…。
「そうですね…」と言葉を発して顔を上げる。
その言葉には意味が無い事は判っていた。
アサトは、自分にではなく、彼らに心配させないようにしようと思ってとった行動であった。
でも、事実は違う。
自分が向う場所は、アブスゲルグではなく…、死と言う、アサト自体の終わりである。
彼らも聞いてはいるだろう、だから、このような言葉をかけてきているのがわかった。
それに対して、憤る事もなく、素直に受け入れられた…多分。
死をも受け入れている。
それは、まだ少ないが、死と言うモノを、確信した瞬間が合ったからなのではないだろうか…。
でも…。
アサトは窓に手を当てた。
とめどなく涙が…なぜか…涙が…。
「…みんな…ごめん…僕………」と言葉にすると、窓の向こうにいるシスティナが大きく膝から崩れて泣き始めた。
それを見たクラウトがシスティナに寄りそう、タイロンは天井を見上げていた。
「…ごめんなさい…。僕………死にたく…ない…」と言いアサトは…。
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