第26話 死に至る病 下
「君の仲間から話は少し聞いたが、ちょっと質問をさせてもらっていいかな?」とエイアイ。
その言葉に、一度、窓の方を見る。
そこには、手を胸に持ってきて、心配そうな顔で中を見ているシスティナと腕組みをしているタイロン。
窓際に手を乗せて覗き込んでいるクラウトの姿があった。
その3人を見てからエイアイへと視線を移して頷く。
「約…1か月前に鼻血を流して倒れた…その時は熱があり…そして…。まぁ~処方された、薬…とは言えないと思うが…、この薬を飲んで熱が下がった…でいいかな?」と聞く。
その言葉に頷くアサト。
「その時になにか異変が無かったか?その時ではなく、それ以前には…」
「そうですね…色々あったんで…覚えてない…ですね…、多分。何もなかったと思います」と言葉にすると、小さく頷き、アサトを挟んでエイアイの向かいに居たキリックが、紙に何かを書き始めた。
「その後は…どうだった?」と聞く。
「そうですね…体調…と言うか、気分がいい日もあれば、動きたくない日もあって…クラウトさんから気力回復の魔法をかけてもらっていましたので…これといった事は…」と返す。
「そうか…、魔法か…。これがこの世界で厄介な代物なんだよな…」と言い、「食欲は?いつからなくなり始めた?」と聞いて来た。
その言葉に目を見開くアサト。
「食欲って…」と答えると、「無くなっていたのは判るよ、いつ頃から?」と聞いてくる。
その問いに、「2週間ほど…まえだと思います。でも、ちゃんと食べていましたけど…」と答えると、エイアイは小さく頷き。
先ほど見ていた紙へと視線を移すエイアイ。
足元には分厚いレンズのレンコが凝視している。
「あのぉ…」とアサト。
その言葉に顔を上げてエイアイが見た。
「ここは…どこなんですか?」と質問をしてみる。
「あぁ…」と言いながらエイアイは部屋を見わたしてから、「ここは『ファンタスティックシティ』…奇想天外な街と言う意味だが…。その街にある病院と言うところだ」と返す。その言葉に…。
「『ファンタスティックシティ』?」と言葉にする。
「あぁ、『ラッシア』から17キロほど東に来たところにある街だよ」と言葉にすると、再び紙に目を通す。
ラッシアから東と言えば…、確か…毒の沼のはず…確かにクラウトが言っていた。
大きな沼…と言うか、湖…。
そんなところに…街が?
「『ラッシア』ではないのですか?」とアサト。
その言葉に、「あぁ…ここはね…湖の真ん中にある街だよ」と言いアサトの腕から手を放し、アサトの体を触り始めた。
顔を触る…下の瞼を下げてから、耳の下の顎上から小さく押しながら顎先まで移動して、首筋を押す。
それから肩へと来ると右腕、左腕と押しながら進み、両脇を押して、胸…両胸を押すと腹…鳩尾を押しながら…下腹部まで小さく押して下がる。
下腹部までくると、わき腹を押して、手を放し。
「舌を出してくれ」と言葉にした。
その言葉に舌を出す。
その舌を見て、「上に」と言葉にする。
その言葉に舌を上に上げる、舌の下をみると「いいよ」と言い、アサトから離れ、アサトを挟んだ向かいにいるキリックとオルドルを見た。
「MRIでの解析は、話の通りのようだな」と言葉にする。
その言葉にキリックが頷き、「精検はまだですが、…多分、報告通りでしょう。もう少しで上がってくると思います」とはっきりとした口調で言葉にした。
その言葉にアサトはキリックを見る。
確かに、このゴブリン、キリックは…言葉を発した…、なぜ?。
その様子を見ていたエイアイ。
「…判るよ、君の反応。」と言い、ベッドから離れ始めた。
ゴブリンは…言葉を離せないし、理解できないのではないか…過去と言うか、今まで会ったゴブリンは、『ギャ』とか…。
意味は解らないが、オークやオーガとの共通の言葉を発していた旧鉱山…。
パインシュタインで会ったゴブリンも、獣人の亜人に通訳されて意味を理解していただけであり、最近では『ゲルヘルム』にて、言語の研究が行われ始めたと聞いているが…それは人間族の話しである。
そもそもゴブリンは知能の低い生き物…、この世界では下級のマモノとしかとらえていなかった。
そのゴブリン、ここにいるキリックは、完全に人間が言う言葉を理解し、答えている…。これは…。
「人の可能性を信じている…。のは人だけ…。なら…」と言うと、エイアイはアサトを見て。
「ゴブリンの可能性は…誰が信じる?」と聞いて来た。
その言葉に答えが出ない。
アサトの表情を見て、「…答えれないのか?」とエイアイ。
その質問に頭を小さく下げ、「…なんて言えばいいか…判らないです」と答えた。
そのアサトを見て、「それが人間。君は、自分でもわからない所で、キリックのような下級のマモノを見下げている。だが、現実に存在しないはずの知性を持ったマモノがいる事で、今までの常識と言う、非常識が君の答えを妨げている…」と言うと、キリックを見るエイアイ。
そして…。
「ゴブリンの可能性を信じているのは、ゴブリン…じゃない…」と言い、再びアサトを見て、「この世界なんだよ」と言葉にした。
…この世界が?
アサトはエイアイを見る。
今、エイアイが言った言葉は、どんな意味があるのか…。
この世界が信じている…この世界とは…。
アサトを見ているエイアイは、レンコの背中を押しながらキリックらの元に行き、「明日の朝、再び採血をして、数値を確認したら始めよう」と言葉にした。
その言葉に3名が頷く。
アサトは4人を見ている。
何を…始める?。
ラオハーが近くに来ると、水のような物が入っている袋を確認する。
左手をアサトの手首に持ってきながら、袋の下にある小さな四角いものにある歯車を小さく動かした。
その光景を見て、「これは…何ですか?」と聞いてみると、「ただの栄養剤ですよ…」と返す。
彼女の向こうにいた4名のうちキリックとオルドルが部屋を後にしようとしていた、エイアイはアサトの方へと振り返る。
そのエイアイに向かって、「僕は…どうなったんですか?」と聞くと、エイアイは小さくうつむき、そしてゆっくりアサトに近づく、目は見えないが厚いメガネに顔半分もあるマスク、その表情を読み取れないが、ただならぬ雰囲気はあった。
「君は…病気だ」と言葉にする。
その言葉に、「病気?…なんの病気ですか?」と聞くと、エイアイは、一度窓の向こうにいるシスティナらを見てから、アサトを見て、「君の病名か…。君は『急性骨髄性白血病』と言う病気にかかっている」と言葉にする。
その言葉に「そうですか…」とアサト。
そして、「僕は、いつここから出られるのですか?」と聞くと、エイアイは小さくうつむき、「…すまんな…」と言うと、アサトに視線を向け。
「君は出られない。君は『死に至る病』にかかっている…。」と言葉にすると、メガネを上げ、「君は…ここで死ぬ」と口調を強くして言葉にした。
その言葉に…。
死ぬ…って…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます