第28話 それぞれの覚悟 下

 「あぁ?何言ってんだ?アイゼン。俺の質問に、俺の思ったような答えを言わなければ…」とアルベルトが言葉にする。

 「あぁ。お前がなんて言おうとも、同じだ」と目の前に居るアルベルトに向かって、目を細めながら言葉にするアイゼン。

 その視線を冷ややかな視線で見つめるアルベルト…。


 『デルヘルム』の夕刻。

 ギルド、パイオニアのアイゼンの一室には、机を挟んでアイゼンとアルベルトが対峙していた。

 アイゼンの斜め後ろで、背中を見せて嗚咽しているサーシャの姿がある。

 アルベルトの後ろには、腕組みをして神妙な顔をしているインシュア。

 その隣にアリッサがいた。


 テレニアはソファーで顔を覆って肩を揺らしている。

 ポドリアンは机のわきで立ち尽くし、グリフは書籍のあるテーブルに備わっている木で出来た椅子に座り、頭を垂れていた。


 「他のみんなは!」とアリッサ。

 その言葉に、「クラウト君からの連絡では、大丈夫そうだが…システィナさんが、かなりショックを受けているようだ…」と返す。

 その言葉に、「…そうでしょうね…」と言いながら唇を噛みしめた。


 「あぁ…当たり前だ!」とアルベルト。

 「とにかく、クラウト君からの連絡は、今伝えた事であって、エイアイからの連絡だと…そんなに長くないかもとの事だ、明日から化学療法を試すと書いてあったが、効くかどうかは賭けだそうだ…。」とアイゼンがエイアイからの手紙をアルベルトの前に置いた。


 「なら…魔法で治せばいいじゃないか」とインシュア。

 「ムリよ…知っているでしょう。ケガや外傷は、魔法で治せるけど、病気は無理だって…」と涙声でテレニアが言葉にする。

 その言葉をきいて、「知ってはいるさ、でも…こうでもしなきゃ…なんか出て来るのか?」とインシュアが声を荒げる。

 その言葉を聞いたアルベルト。

 「あぁ…そうだ、なんでもやって見なきゃわからないんじゃないのか…アイゼン」とアイゼンに鋭い視線をおくる。

 その視線を見ながら…。


 「君たちの気持ちはわかるが…、だが…、これが現実だ。その現実を…」

 「現実かどうかはどうでもいい…どうにかしろよ!」とアルベルトがアイゼンの言葉を裂いて言葉にした。

 その言葉に大きく息をつくと、「すまん…無理なモノは…無理だ…」と言い頭を垂れた。

 その頭を見て、「…ッチ」とアルベルト。


 「あぁ、わかった。」と言うと振り返り部屋を後にし始めた。

 そのアルベルトを見て、「どこに行くつもりだ!」とアイゼンが言葉にする。

 その言葉に立ち止まると、「あんたの言っている事は俺でもわかる。…おれも少し熱くなり過ぎた」と言うと振り返り、アイゼンらを見て…。


 「だから…俺は、その『ファンタスティックシティ』とやらに行く」と言葉にした。

 「なに?」とポドリアン。

 近くにいたインシュアも目を閉じる。

 「あぁ、ここでがん首そろえて、無駄な話しをしているより、その場に行っていた方がいい。」と言うと、一歩前に踏み出し。

 「俺の弟弟子は狩猟者だ。狩猟者が戦って死ぬなら、おれは文句は言わねぇ~、でもな、俺の弟弟子は、病気で死ぬって言われてんだ…。それに…なんだ?その移植ってやつ。やってもいないのに種類だか、種別だか分んないが、勝手に確率下げて、俺の弟弟子に、俺の許可なく死の宣告を勝手にしやがって…、だから、俺がその移植っていうやつをやってやる、そして、あの男にも一言言ってやる!」というと振り返る。


 そこにはインシュアが立っていて。

 「あぁ…俺もお前が言う事に賛同だ!一緒に行く」と言葉にする。

 そのインシュアを見て、「あぁ…当たり前だ…行くぞ!」と言うとアイゼンの部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見ていたアリッサがアイゼンに頭を下げ。

 「すみません…わたしも行きます。セラとケイティ、ジェンスをお願いします!」と言うと2人の後を追った。


 その3人を見てからポドリアンに視線を移すアイゼン。

 ポドリアンは小さく頷き、ため息をつくと3人の後を追った。


 その後ろ姿を見ているアイゼンの傍に来たサーシャ。

 「エイアイの技術でも…どうにもならないのかしら…」と言葉にする。

 その言葉に、「エイアイは…昔言っていた。死は、命の証であり、その領域は…神の領域。手を付ける事は、神への冒涜…何人でも、どんな事や物語でも…気軽に扱ってはならぬ事象…とな…」と言うとサーシャを見て、「神がこの世に存在するなら信じるしかないが…今は、受け入れる準備もしておかなければ…」と言葉にする。

 その言葉にサーシャは口を押さえて…。


 「…あの子まで…」と嗚咽をともなった言葉を小さく発した…。


 アルベルトを先頭に南正門に向かう。

 その道中にケイティが、噴水広場を歩いているのに気付いたアリッサが、二人を止めてケイティに向かう。


 ケイティは、キャラを食べながら歩いていた。

 「ケイティ!」とアリッサ。

 その言葉に振り向き、大きな笑みを見せる。


 そのケイティに近づくと、「どうしたぁ?アリッチ?」とケイティが不思議な顔で聞いて来た。

 息を整えながら。

 「いい…よく聞いてケイティ」と言葉にすると、一つ息を飲み。

 「私たちはこれから…アサトの所に行く」と言葉にする。

 その言葉に、「なに?なにかあった?」と真顔でアリッサを見た。


 「うん…、アサトがね…病気なの」と言うと、口を開けて、「病気?って…」とケイティ。

 「そう…だからね…」

 「なに?なに?意味がわからない、行くってなに?どういう事!」とたたみかけてきた。


 そのケイティに向かって。

 「クソガキは…を発症している」とアルベルトが冷ややかな視線で言葉にした。

 「…死に…至る…病…って…」と持っていたキャラを落とす。

 「それって…」と目を見開いてケイティがつぶやくと、「あぁ…!」とアルベルト。


 「え?…え?」とアリッサを見る。

 「だからケイティ…」

 「いや!あたしも行く!」と声を上げ始めた。


 その声に向かい、ケイティの肩を強くつかんで、「私らが行ってもどうにもならない…でも、あなたはここに残っているだけで出来る事があるの!」と言い、まっすぐにケイティを見て、「あなたはセラのおねぇ~さんなんでしょ…なら、ここに残って…わたし達を待つの」とアリッサ。


 「…でも…アサトが…」とアリッサを見つめる。

 「俺たちが無事にアサトらに会える保証も無いんだ。俺たちがいなくなったら…ちびっこらはどうするんだ?誰も知らないこの地で…」とインシュアが言うと、その言葉にアリッサは頷き、「あなたがセラを守るの!できるよねケイティ!」と言葉にした。


 「なら…アサト…ちゃんと連れて帰って来るって約束して…」とケイティはうつむきながら言葉にする。

 その言葉にうつむくアリッサ。

 「アリッチ…約束して!出来ないの?なんで?な…」


 「あぁ、約束する。何をどうしても、俺があいつを生きてここに連れてくる。立てなくなっていても、血を吐いていても…」とアルベルトが言葉を遮った。

 そのアルベルトを睨むように見て、「…わかった…、もし連れて来なかったら…あんたを…死ぬまで恨むからね」と言葉にする。

 「あぁ…覚悟はできている」と返すアルベルト。

 「なら…」と言葉にすると、落ちたキャラを拾い。


 「待ってるね」と言葉にした。


 その顔からは、大粒の涙が溢れていた…。

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