第31話 思わぬモノの見舞い 上

 「ここだ…」とトロッコから下りて、30分ほど歩いた場所にある建物に着いた。

 そこは5階建ての建物であり、コンクリートと言う物質で作られていると言う事だった。

 この街を作り始めたのは17年前…。

 ナガミチと共にこの国に来てすぐに、この場所に街を作り始めたようである。


 クレアシアンとの戦いが終わった後に、ここで生活を始めたようであり、ナガミチは、約7年間、エイアイと共にここで生活をして、色々な知識を学び、そして太刀と言うモノを1から学びなおしたそうである。


 その後10年間、アサトが来るまで同郷のモノを待ったそうだ。

 ちなみにアズサも3年ここで生活をした後、誘われた国スイルランドへと帰ったと言う事であった。


 「そのエイアイって、何者だ?」とインシュア。

 その言葉に、「聞いても理解が常識を遥かに超えています」とクラウトが建物を見上げて言葉にする。

 「この光は…どう言う事だ?」とアルベルトが言葉にする。

 「これは…核と言う物質を使って熱をつくりは…」

 「あぁ…いい。お前の理解を越えている事が、俺たちにわかる訳無いだろう…」とアルベルト。

 その言葉にメガネのブリッジを上げて振り返り。

 「あぁ、おれも理解ができていない…」と返した。


 「とにかく…連れて行って…」とアリッサ。

 その言葉に頷き、建物の中に入った。

 インシュアはその場で辺りを見わたしてから、背中の武器を外し、上着を脱いで、その上着で武器を隠すとアリッサらの後を追った…。


 エレベーターに乗り4階へと着く、そこから中の方に少し進むと両脇が壁になっている薄暗い廊下が見える、その廊下に立っている人影が見えた。

 システィナである。


 「シス!」とアリッサが声をかけると、その言葉に弾かれたように向き、大きく息を吸いながらこちらに向かって進んでくると、近くまで来た時に大きな声を上げて泣き始め、アリッサの胸に飛び込んだ。

 「アサト君…が…アサト…君…がぁ…ぁぁぁぁぁ」と…。

 そのシスティナを抱きしめたアリッサは、「ウン…ウン…つらいよネ…ウン…」と言葉にして、小さく目頭を緩まして涙を流した。


 アルベルトはシスティナが立っていた場所に向かう。

 インシュアは、アリッサの胸で泣いているシスティナの頭を小さくなでると、アルベルトの後に着いた。

 クラウトとタイロンも窓のある方へと向かう。


 窓越しにいるアサトは、小さな息をして眠っていた。

 そのそばにあるモニターも規則正しい波形を見せている。


 「あんなに…小さかったか?」とインシュア。

 「ここから遠いからじゃないのか?」とアルベルトが目を細めて言葉にした。


 しばらくすると、アリッサに肩を抱かれたシスティナが来る。

 「アサト君は…今は眠ってます。安定剤を飲ませたって…エイアイ先生が…」と言葉にした。

 「それで…あの薄気味悪いやつは何処だ?」とアルベルト。

 「お前知っているのか?」とインシュアが聞く。

 「あぁ、前にデブ髭に連れられて護衛に何回か共にした。最後はこっちが嫌になって離れたけどな…そのあと山を越えた。」と言いシスティナを見る。


 「ハイ…エイアイ先生は、急患で…」

 「急患?」とアルベルト。

 「ハイ…なので、明日話を聞くと…」と返した。

 その言葉に「…ッチ」と舌打ちをする。


 「とりあえず、今夜はもう遅いから…こっちに休める場所をようい…」と言葉にしている最中に、クラウトの襟首を掴み。

 「あぁ?何言ってんだクソ眼鏡…」とアルベルト。

 その言葉に目を細めるクラウト。

 「おれは、ここに休みに来た訳じゃないんだ…弟弟子に、俺の何とかを移植しに来たんだ」と目に力を入れて言葉にする。

 その言葉に、「あぁ…判っている。ポドリアンさんからの連絡で聞いていた。ただ、今は出来ない…きゅう」

 「急患がどうなろうと俺には関係ない、わ…」

 「もう…やめてください!」とシスティナが割って入った。


 その言葉にアルベルトは言葉を止める。

 「私たちも辛いですけど…それよりも…アサト君の方が…辛いんです…死にたくないんです…でも…」と言い大粒の涙を流して…。

 「でも…受け入れようとしているんです…死ぬことを…だから、そんなアサト君の前で…」と言いアリッサの胸に顔をうずめて泣き出した。

 「そうね…今夜は起きそうも無いし…わたし達が着た事を知れば、アサト君の性格だと、気を遣わせてしまう…」と言い、クラウトを見て、「休ませてもらうわ」と言葉にした。


 その言葉に襟首をつかんでいた手を離したアルベルト。

 「俺たちも休もう」とインシュアに声をかけられ、小さくアサトを見てから、クラウトの襟を直し。

 「すまなかった…冷静じゃなかった…」と言葉にした。

 その言葉に、「あぁ…みんなそうだ…」と言い振り返り進み始めた。

 その後を一同が、一度アサトを見てから追い始めた。


 規則正しい音に目を覚ましたアサトは、薄暗い部屋の天井を見つめていた。

 その場所は…クリーンルーム。

 蛍光管の灯りがほんのりオレンジに見える。

 どの位眠っていたのか分からないが…。


 窓のないこの部屋は、時間の感覚を失わせる雰囲気があった。

 死ぬことを受け入れるのに、どれだけの時間が必要なのだろう、いざ、現実を突きつけられた今は、ただ、天井を見ているしかなかった。


 戦いに死す事を考えていた自分…。

 それが…。


 …と、ふいに何かの気配に、大きな窓の方へと視線を移すと、そこにはナガミチが立っていた。

 幻である事は判っている、ナガミチはもうこの世に存在していない人物…。

 アサトは上半身を起こし、幻のナガミチを見る。

 ナガミチはまっすぐな視線をアサトに送っていた。


 話がしたかった…、答えてくれない事は判っているが…。


 もう既に体には管が着いていなく、胸についてる物を5つ取り外す、それと同時にピーと言う音が発生して、モニターが刻んでいた波形がまっすぐな線を作り出した。


 ベッドから降りて窓辺に進むとナガミチが小さく微笑む。

 その微笑みは、アサト自身が選んでいるのかも知れなかった、誰かに寄り添いたい…。


 窓辺に立つと、その向こうにある長椅子にアリッサがいた…。

 その肩に頭を倒してシスティナが眠っている。

 システィナの隣ではインシュアが腕組みをして眠っている。

 その椅子から少し間を開けた場所にアルベルトもインシュアと同じように腕組みをして眠っていた。

 タイロンとクラウトの姿は無い…。


 アサトは、その4人を見て小さく微笑む。


 …僕の為に来てくれたんだ…。


 視線を幻のナガミチへと移す。

 ナガミチは笑みを見せているだけであるが、何処か表情に曇りを感じさせていた。

 その表情は…。


 迷っている?というような感じであり、目がアサトの視線に合わせていなかった…。


 「僕…」と言葉にすると、ナガミチは頷き、目を閉じた…。

 その行為に…小さく頷く。


 言葉は交わせないが、その意味は…多分、分かっていると言う事であろう…。

 意味の理解はその者の裁量である、アサトは、死を正当化するためにナガミチの幻をつくり、同意して欲しかったのではないか…。

 病気で死んでしまう自分を受け入れて欲しかった…のではない…か…と…。


 ナガミチの笑みを見た後、ベッドに戻り腰を下ろして座ると、いきなり部屋が明るくなった。


 その変化に戸惑いながら辺りを見わたすと……。

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