第2話 帰途に着く行路にて… 下
「今度は…サル公かぁ~」とケイティ姫が何故かご立腹である。…ので、システィナが、この村で棒についた飴を袋一杯に購入して、セラとシスティナに一袋づつあげていた。
袋一杯にあった飴だが…、やはり悲劇は、再び起きた。
スケサルに飴を取られたケイティ姫は、真夜中にも関わらず、大声でそのスケサルを追い回し、あげくの果てにアリッサに怒られていた。
もらった飴をすべて奪われたケイティを見かねたセラが、自分の持っている飴をセラに分けている。なので…。ニコニコ顔でアサトらをセラと一緒に見ていた…。
もう少しで『ゲルヘルム』である。
夏の強い日差しの中を馬車が進んでいる。
手綱を持つタイロン、その隣で、地図を見ているクラウトがいて、馬車の中では、アリッサとシスティナが何かを話している。
馬車の後方にある扉は開け放たれていて、後方にある少し出ている場所にセラとケイティが並んで座り、飴を舐めながらアサトらの走りを見ていた。
アサトは、馬車に見えるケイティとセラを見てから、ジェンスとの距離を確認しようと振り返った。
そこには、ちょっと驚いた表情でアサトをジェンスが見ていた。
その表情をみながら、「どうしたの?」とアサトが聞くと、ジェンスが指を指して、「鼻血…出ているよ…」と答える。
その言葉に…え?と思い、鼻の下を手で拭き、その手を見ると真っ赤な鮮血が手に走っていた。
あれ?と思った瞬間、急に目の前が揺れ出し、体の力が抜け始め、推進力を失いながら、よろよろと右側に体が崩れるように傾くと…。
「あ…アサト!」とケイティが声をかける、その隣でセラが目を大きく見開いていた。
ケイティは馬車から飛び降り、「セラ、馬車止めてもらって!」と声をかけると、セラは頷き、開ききった扉の向こうに向かって、「馬車、止めて!アサトが倒れた!」と声をかける。
その声に、アリッサが目を見開き、外を一度見てから前方へと向かった。
システィナは胸に手を当て馬車の扉から、走ってゆくケイティを見ると、膝をついて伺っているジェンスへと視線を移し、その下に横になっているアサトの姿を見て口を押さえた。
馬車が止まると、クラウトが飛び降りて駆け出す。
ケイティが舐めていた飴を放り投げ、ジェンスの向かいに膝をついた。
「アサト!どうしたの?アサト!!」と呼ぶケイティ。
「鼻血出ていたと思ったら…急に…」とジェンス。
傍に来たクラウトは、状況を見て、「とにかく、その鼻血を…」と言いながら、布を出してケイティに渡した。
その布を優しく鼻に持ってきて抑えるケイティは…。
「熱…すごい!」と言葉にすると、ジェンスを見て「水!」と叫んだ。
ジェンスは立ち上がり「水!」と馬車へと向かって叫ぶ。
その声にアリッサが貯蔵していた水を桶に入れて運んで来る、その隣には、布を手にしているシスティナの姿があった。
2人は、アサトの傍に来ると、システィナが氷の呪文を唱え、出来た氷を桶に入れて冷えた水を作り、アリッサがその水に布を思いっきり浸してから取りだし、水分を少し含ませた状態の布をアサトのオデコに乗せた。
別に苦しそうな表情ではない。
セラが駆け寄り、タイロンが馬車を近づけさせた。
クラウトは辺りを見わたしてから、「あと数キロで『ゲルヘルム』だ、アサトには悪いが、そこまで行こう!」と言うと、アリッサが小さく頷き、馬車へと向かって進みだした。
手綱を持っているタイロンの傍に来て、「アサト…乗せて…」と小さくうつむきながら言葉にする。
その表情を見てタイロンは小さく頷き、手綱をアリッサに渡すと、アサトの元に進みだした。
システィナとセラが、馬車の中に入ると、中を少し片づけてから、布団と綺麗なシーツを敷いて横になる準備をする、そこにアサトを抱き上げたタイロンがくる。
タイロンが馬車に付いている階段を慎重に登り、ゆっくりと馬車の中に入ると、敷かれた布団に、アサトを横にしてシスティナとセラを見た。
システィナは、小さくうつむきながら袖を上げて看護の準備に入る。
セラも、同じく袖を上げた。
その状況を見たタイロンは馬車から下り、タイロンが下りたのち、ケイティとジェンスが中を覗き込んだ。
クラウトの傍にタイロンが立つと、一同の動きをクラウトはメガネのブリッジを上げて見ていた。
アサトは、小さな呼吸で眠っている。
システィナがおでこに手を当て、その熱の熱さを感じてから、アサトの衣類を脱がし、首脇と脇の下に濡れた布を置き挟み込んだ。
そのあと、馬車から下りる。
システィナの邪魔にならないように、ケイティらが少しその場から離れ、システィナの行動を見ていた。
システィナは濡らした布を地面に置き、その布を魔法を使って凍らす。
「これですこしは持ちます。」とクラウトを見て言うと、凍った布を回収したシスティナが馬車に乗り込む。
その後に、再びケイティとジェンスがなかを覗き込んだ。
クラウトは、システィナの言葉に頷いて辺りを見わたす。
穏やかに流れる風があり、遠くに大きくわき立つ雲も見える。
その下では、雷鳴がとどろいているのが確認できた。
雲の流れを確認してから、その場にいるケイティとジェンス、タイロンを見て、「急ごう!」と声をかける。
クラウトの言葉に、タイロンは馬車の前方に進み、ケイティとジェンスが馬車の後ろから少し離れた。
手綱をタイロンに渡したアリッサが、馬車の中に上着を脱ぎながら入ってゆく、アリッサから手綱を受け取ったタイロンが前方の席に座り、クラウトに視線を移す。
「少し…急ごう…」と言葉にしながらその隣に座り、タイロンは頷いて、馬車の側面を小さく叩き、「行くぞ!」と声をかけると馬車を進め始めた。
動き出した馬車の後ろでケイティとジェンスは、顔を見合わせてから、馬車の中にいるアサトらへと視線を移し、後を追って走り始めた。
馬車は、何度か布を凍らせる為に止まったが、時間を掛けずに『ゲルヘルム』へと到着した。
時間は夕刻前である。
馬車ごと停められる建物へ進むと、街医者をジェンスとケイティが探しに出る、アリッサとセラ、タイロンが食料の買い出しに街へと出た。
クラウトは宿屋の確保に向かい、システィナが残ってアサトの看病をした。
そして…。
6回目の鐘が6回鳴り響いた『ゲルヘルム』の街は、まだ暑く、太陽も高い位置にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます