第9話 システィナのお願いと『デルヘルム』への帰途 上

 目が覚めた。

 そこは、大きな横柱とクロスが張ってある見知らぬ天井があり、子供の駆け抜ける声が聞こえ、爽やかな風が優しくカーテンを揺らしている部屋であった。


 アサトは、おでこにある布を手であげると確認をする。

 脇が濡れているので、触ってみると、そこにも布があった。

 その布をとり、横を見てみると、目を見開いて見ている視線を確認した。


 システィナである。


 システィナは、アサトの視線を見ると小さく目を閉じて息を吐き出し。

 「もう…大丈夫そうね…」と言葉にした。

 「僕は…」とアサト。

 「ウン。修行中に倒れたの」と言いながらおでこに手を当てる。

 その手はひんやりと感じたが、どこか心地いい気分になった。


 …懐かしい?気分…。


 「熱は下がったみたいね」と言うと布を手にして立ち上がり、近くにあるバケツに向かう。

 アサトはゆっくり体を起こすと、その行動に気付いたシスティナが駆け寄り背中に手を当てた。

 そのまま上体を起こすと、背中と壁の間に枕と近くにあった掛布団を枕の上に置き、ゆっくりとアサトを誘った。


 「急に起きたら…」と言葉にするシスティナ。

 「あっ、ごめんなさい…」とその言葉に返すアサト。


 「お医者さんの言う事には…疲れが出ていたんじゃないかな?って事だった」と言ながらシスティナは椅子に座り、笑みを見せる。

 「そうなんだ…」とアサト。


 考えてみれば、『グルヘルム』で戦闘を数日したのち、休むことなく修行をしていた。

 自分の無力さやシスティナの言葉、そしてクラウトの言葉…、僕らはまだまだ伸びしろがあって、有効な武器で戦っていない。

 そして、自分から言った。

 クレアシアン討伐は必ずやりたい…。

 ジェンスの熱心な修行ぶりも、自分に見えない疲れを持たせていたんでは…。


 「クラウトさんが、いい機会だから数日休もうって」とシスティナ。

 その言葉に、「僕…どのくらい休んでいました?」とアサトが聞くと、「昨日ここについたばかりだからそんなに休んでないよ」と言い立ち上がり、「お腹減ってない?」と聞いてきた。

 その問いに腹を擦って…。


 「うん…少しは食べた方がいいかな?」と答えると、笑みをみせながら、「わたし…下で貰ってきます」と言い部屋を出た。


 しばらくすると扉が開く。

 暖かなスープと卵料理にハムのステーキ、温めたパンを乗せているお盆を持ったシスティナが戻って来た。

 テーブルにお盆を置くと再び部屋を出る。


 しばらくすると小さめのテーブルを持って中に入って来た。

 その様子を見てアサトが動くと、「大丈夫だから」と笑みを見せながら、テーブルをベッドに置き、アサトの目の前に設置した。

 そこに先ほどのお盆を置く。


 「もう、お昼近い時間だったから、軽めのモノってあんまり…」と言いながらテーブルに白い包み紙を置いた。

 その紙を見て、「これは?」と聞く。

 「これはお薬です。熱を下げる薬みたい。」と言うと、その包み紙を開けた。


 そこには、白い粉と細切れになっている葉が入っていた。

 お盆に湯気の立っているスープとは違う飲み物があり、匂いだけでも不快な感じのするものであった。


 それを覗くと、「滋養成分が入っている飲み物みたい、それにこの薬を入れて…」といいながら先ほどの粉薬を入れてかき混ぜ始めた。

 「これで、食事が終わったら飲んでってお医者さんが言っていました」と小さく笑みを見せてシスティナが言葉にした。

 「そうなんだ…」といいながらその飲み物を覗くアサト。


 匂いは変わらずに不快である。

 緑の葉が浮いているが…大丈夫か?とりあえず、パンとスープ。そして、冷たいヤギの乳を飲み、食事に手をかけた。

 すべては食べられなかったが、程よく食べたところでその薬を飲む、味もやはり、匂いと同じで不快である。

 一応、じっと見ているシスティナの手前、飲み干し、空いたカップを見せて笑みを見せる。

 その笑みに答えたシスティナはお盆を下げてからテーブルを外した。


 「ところで…ここは?」とアサト。

 テーブルを部屋の隅に置き、アサトのベッド脇に座るシスティナ。

 「『ゲルヘルム』です。」と答える。

 「ねぇ~、システィナさん。そろそろ敬語…やめませんか?」とアサトが聞くと、小さく肩を竦めながら、「うん…、でも、アサト君も敬語…使っているから…」と答えた。


 その答えに、そうかな?と思う。まぁ…ぼくもそろそろ敬語は卒業かな?


 「そうかな…じゃ、そろそろお互いやめよう」と言葉にする。

 「うん…そうだ…ですよね」とシスティナ。


 ははははは…。


 外の声の感じを考えると『ゲルヘルム』の感じがわかった。

 遠くだが活気のある声と人が行き交う声、先ほど聞いた子供らが戻って来たような声も聞こえる。

 ベッドの大きさもあの日に眠った…あっ。


 アサトは、以前ここで起きた、と言うか、起こしてしまった。

 システィナおっぱい吸い付き事件を思い出し、少し俯いた。

 とにかくだ…話題を変えよう…。


 アサトは、ゆっくり部屋を見わたした。

 太刀が2本壁に立てかけられており、来ていたと思われる服も綺麗にたたまれていて、部屋の隅にあるテーブルの上に置かれていた。

 でも…何かが足りない…。


 「あっ」とアサト。

 その言葉に不思議そうに見るシスティナ。

 「そう言えば…みんなは?」と聞いてみる。


 一番うるさいケイティの声が聞こえない。

 ケイティだけじゃない、アリッサやタイロン。クラウトは何かを常にしていて存在感があってもそこにいない人だけど、セラやジェンスの新しい声も聞こえない。


 「壁外に行って…いま…る。」とシスティナ。

 「はははは…無理しなくていいよ、自然体でいこうよ」とアサト。

 アサトの言葉に再び肩をしぼめて小さく舌を出した。

 「そんな仕草もするんだね」とアサトが笑みを見せて言うと、「うん…ねぇ、アサト君」と言葉にする。


 それから小さく息を吐くと、「わたしの話し…聞いてくれる?」と言葉にした。


 …え?なになに?。

 改まった言い方が妙に嫌な予感をくすぐる。

 もしかしたら…。


 「わたし…考えてみたの…」とシスティナ。

 「考えた…って?」と恐る恐るアサトが聞くと、小さく頷き「クラウトさんには、まだ言ってないんだけどね」と少し神妙な面持ちとなり、思いつめた表情を浮べた。


 その表情に心拍数があがり…。

 やめる…って、言わないで…システィナさん…。

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