第17話 白いドラゴンの召喚の儀 上
夕刻。まだ日の高い『デルヘルム』近郊の草原。
「な…何だこりゃ…」と声を上げるインシュア…。
「…ッチ」と舌打ちをするアルベルト。
「…おいおいおいおい…」と目を丸くしているポドリアンに、口を開けたままその姿を見ているグリフがいた。
「ねぇ~襲ってこない?」とセラの後ろでチャ子が見上げる。
その後ろには「いやムリムリムリムリ…」とレニィが声を発している。
久しぶりにあったスカンの仲間も口を開けて見上げていた。
「これが…『オークプリンス』」とアイゼンは顎に手を当てて見ている。
そこには、布を腰に巻いただけの姿で、鋼の鎧でもつけているような光沢のある茶色い肌に、血管と筋肉の筋がうっすらと表面にあらわれているほど、体脂肪の薄さを感じさせ、巨大な筋肉の塊をつけているような腕と胸の筋肉、そして、割れた腹筋とその周りの筋肉、すべてがはっきりとその造りを形に出している。
下半身ともなると、太ももや脹脛はがっしりとした造りとなっていて、体全体が筋肉で出来ているような体の持ち主であった。
額には、深緑に輝くひし形のモノがついてあり、その深緑は、燃えているように揺らめいている。それが召喚石。
その召喚石を持っている『オークプリンス』が一同を見下ろしていた。
アイゼンの隣で、その威圧感に口を押さえ、呆気に捕らわれているサーシャとテレニア。
その後ろに…と言うか、かなり後ろでアルニアが膝を抱えて見ていた。
「さすがに…迫力があるね」とアイゼンはクラウトの傍に来て言葉をかける。
「そうですね、こうしていてもすごい迫力です。」と言い笑みを見せながら、「この状況でも、これだけの威圧感。あの乱戦の中で、1対1で対峙し、また傷を負わせたアサトは…この何十倍もの恐怖を感じたと思います。本当に敬服します」と言いメガネのブリッジを上げた。
その表情を見てから、アサトに視線を移し、「アサト君」と声をかける。
その言葉にアイゼンを見る。
「君は…この者と対峙をした時にどう感じた?」と聞いて来た。
その問いに、「…そうですね…、なんか…焦っていた…のかもしれませんし…、うぬぼれていた…のかもしれません」と返す。
「そうか…、まだ実戦が少ないからかな…でも」と言うと『オークプリンス』へ向き、「この巨体を斬れなかった事を考えてみて、そう感じた面はないか?」と再び質問をして来る。
アイゼンの言葉には、確かに…『ゲルヘルム』から帰った後に色々考えた…でも、結局、なぜ最後と言うか、途中で筋肉に阻止をされて、尚且つ、刃が動かない状況になってしまったのか…考えても結論は着かずに、何となく、先ほどの言葉のように経験を積んではっきりしたものにしようという、あいまいな答えにしてしまっていた。
アイゼンの問いに小さくうつむく、そのアサトを見て、「そうか…なら…」と言い、アイゼンはアサトの前に出る。
「私は、一度ナガミチにノブタを食べさせてもらった。」と言うと、アサトの腰に携えてある太刀を抜いた。
そして刃を立てる。
その刃には、暮れ始めている太陽が小さな光を見せている。
その光を動かすかのように、しなやかに太刀を小さく動かすアイゼン。
「その時、この太刀でノブタを捌いた。」と言い、アサトに剣先を向け。
「君は、太刀をまだ使いこなせてない。私がナガミチから肉の斬り方を教えてもらった。君も聞いただろう…」と言い、小さく柄を自分へと引く。
「あっ!」とアサト。
「思い出したか?」と言い、太刀の柄をアサトにむける。
その柄を手にしたアサトは、「はい…ぼく…忘れていました。」と言い、「あの時は、ただ振れば斬れると言う感覚で『オークプリンス』に刃を振りました。」と言い刃を見て。
「そうです…一番最初に教えてもらいました…」と言うと剣先を上げる。
「流す…んです…その為に刃を知るんです」と言うと、
「わたしも、太刀の性質は知らないが…あの時のナガミチは…30センチ程の肉の塊を、引いて斬り放した…。」と言い笑みを見せた。
その笑みに向かい、「そうです、切れないモノはない…ただ、この刃の特性をまだ理解しないで…そのうえ…己惚れていて…」と言うと、「それでいいんだ、アサト君。君はこれから多くの失敗を重ねる。1つの成功を掴むために10の失敗をする覚悟を持つんだ」と言い、アサトの肩に手を置き軽く何度か握る。
その行為に「ハイ!」と返事をすると太刀を仕舞った。
思い出す。
ナガミチの修行。
木柱に刃を当て軽く流す…流すだけであれだけ傷がつく、相手の大きさを考えて長太刀を用意したのに、力で斬りに行った自分が…まだまだ、経験不足…なんだ…。
初めて結論が出た感じに胸を撫でおろし、自然に笑みが出てきていた。
一同はアサトを見て、笑みを見せる。
「さて…、セラちゃん。そろそろこの『プリンス』しまってくれないか?おじさん達には心臓に悪い」と優しく声をかけるアイゼン。
その言葉に一度クラウトを見る。
クラウトは小さく頷く、その仕草を見てから、『オークプリンス』を石に返した。
そのセラにクラウトが近付いて、「それじゃ…召喚の儀を…名前は決めたか?」と聞くと、今度はシスティナを見る。
システィナは小さく笑みを見せて頷くと、「うむ…決めている。シスと決めた!」と言い、クラウトから白い召喚石を受け取った。
そのセラの傍にタイロンが来て、「届かなかったらごめんな」と言いニカっと笑ってみせた。
その言葉に頷くと振りかえり、その場を数歩進んで一同と距離を取り、ロッドに召喚石をはめると、「出でよ…石のモノ。我との召喚の儀を始める!」と何度かロッドを回して正面へと向けると、少し先に金色の直径2メートル程の円が作り出され、その弧に金色で、文字らしきものが刻まれると、円の中に淡い金色のさざ波が立ち、その中から何かが現れた…その何かは…。
体長1メートルほどの真っ白な…ドラゴン。
確かに、瞳の作りや体の形はドラゴンであり、しっかり鱗も見えている。
翼にも爪がついてあって、まだ細い尻尾に短いが立派な太ももを備え、足の先にも爪が見える。
確かに…小さいがドラゴンである。
拍子抜けを喰らった一同。
「…おいクソ眼鏡。赤いドラゴンじゃないのか?」とアルベルト。
その言葉に、「そうだが、これは成獣前のからだから引き離した召喚石」と言うと、「…それは…すごいのを手に入れたね。ドラゴンだけの特性…、成長し、進化する…」とテレニアが付け加えた。
「それって…」とサーシャが言葉にすると、「あぁ…アポカプリスと本気で戦うなら…必要な召喚獣だ。」とアイゼンが付け加えた。
その言葉に「…ッチ」と舌打ちをするアルベルト。
「んじゃ…」とセラは言い。
銀色の布袋から黒いコインを出し、そのコインに呪文を唱える。
「漆黒の闇に封じられし、偉大なる力、我の証を取り込み、我が与える命名に、その命を注ぎ、永遠の服従を誓い、いついかなる時でも我に力を貸すことを誓え!」と…
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