―Continue to the next volume―

 うっそうと生い茂る林を抜けた場所には、見上げる程に高く聳え立っている崖があった。


 その物体は、首を緩やかに左右に振り、辺りの気配を確認しながら、四肢を使って進んでいる。

 崖の麓にくると見上げ、何かを確認した。


 物体が見上げた先には、約2メートル程の高さの場所に、幅1メートル50センチ程の決して広くはない、人工的につくられた道が見えていた。


 巨体をゆっくりと動かして立ち上がると、その道に向かい短い前足を伸ばした。

 道の端に爪をかけた状態の物体は、黒い鼻を使って、その場所の匂いを嗅いでいた。

 しばらく嗅ぐと、顔を上へと向け、鼻孔を小さく動かしながら嗅いだ後に、重い体を巧みに使い、その道へと体を上がらせた。


 道は緩やかに上へと続いて行く。

 その道がどこまで続いているかはわからないが、確かに上へと続いていた。

 道に上った物体にとって、その道が決して広いとは言えない、だが、その道を進む事が出来そうな幅である。

 物体は、何かを探るように、前足の近くに真っ黒い鼻を近づけて、匂いを嗅ぐ。

 小さく動く鼻孔が、岩で出来ていると思われる道をなぞるように嗅いでから、顔を上げて空気のかすかな香りを嗅いでいた。


 物体の目には、高く頑丈に出来ている壁が、そんなに遠くない場所に見える。

 この道も、その壁の向こうへと続く崖に続いていた。


 物体は、ゆっくり、そして、もっさりと白い巨体を動かし、恐る恐る道を進みだした。

 その先にある壁の向こうを目指しているのかどうかはわからないが、緩やかに続く道を進んでいた。


 壁の向こうにも林がうっそうと見えている。

 道は緩やかだが、その高さは進むにつれて高くなるのは感じられている。

 壁を越えた場所まで来ると、その高さは、4メートル程に達していた。


 ただ、この物体には、それほど高くは感じられない。

 それもそうである。

 この物体の大きさは、ゆうに4メートル程の大きさがあったからだ。ただ、その巨体でも、降りるのは容易ではない。


 後ろ足を探るように投げ出し、脚がかかりそうな場所を探しながら、小刻みに動かしている。

 ジタバタしているような状況から、程よい足場を見つけると、がっしりと足をかけたが、4メートルの巨体の重量は、すでにトンは近い。


 かけた脚に体重をかけると、岩が砕ける音と共に巨体が崖を滑り始めた。

 巨体が地面につくには時間はかからない。

 大きく抉れ、一緒に落ちて来た岩が数個と共に、大きな音をたてて地面に叩きつけられるように転がり落ちた物体は、その場で蹲っていた。


 息はしているようである。だが…動かない…。


 巨体は、真っ白な塊となり、その場で…。


 壁からは、3メートル程離れた場所である。

 そして、この物体が壁の中に入ったのは…、まだ、夏を迎える前の時期であった…。



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     遥かなるアブスゲルグⅥ -2つの卒業試験編 『ネシラズ』と奴隷商人-

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遥かなるアブスゲルグ Ⅴ -死に至る病と錬金術師- さすらいの物書き師 @takeman1207

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