第4話 彼女、プー丸、自分

健斗は陽菜と水族館に行き、

近くのハンバーグ店で夕食を済また。


陽菜にもっと一緒にいたいと言われたが、

家でやりたい仕事があると適当に嘘をつき帰ってきた。

健斗は家で仕事をしたことがない。

陽菜に会う前はワクワクしたのに、

10時から20時までの10時間が健斗に予想外の疲れを与えた。

水族館で海洋生物を見ているのか、ハンバーグを味わっているのか、

陽菜の仕事や友達などの話を聞いているのかわからない状態だったからだ。


「あー、だる。」


健斗は帰宅後プー丸のゲージのドアを開けソファーに倒れた。

すぐに尻尾を振ったプー丸が健斗に近寄り顔を舐めた。


「ごめん、プー丸、俺は疲れた。

舐めないでくれ。」


プー丸の顔を自分の顔から逸らそうと手をプー丸の顔に当てるが、

プー丸は健斗に構ってほしくて、

健斗の手を鼻で払いのけ健斗の顔を再び舐めた。


「あー、もー、かわいいなー。

ただいま。」


プー丸の甘える動作に健斗は負け、

プー丸の体をガシガシとなでた。


ポロン。


スマホが鳴った。


鳴ったスマホを放置し、

健斗はプー丸とのスキンシップを続けた。

健斗が帰宅したときに行うプー丸とのスキンシップは決まっている。

まず、健斗がプー丸の体をガシガシなで、

プー丸のお気に入りのピンク色のロープおもちゃで遊ぶ、

最後におやつを健斗が投げプー丸がキャッチして終了だ。


ほんの5分ほどのプー丸とのスキンシップ。

その間にスマホが2・3回鳴っていた。


健斗はコーヒーを淹れて、ソファーに座った。

健斗がソファーに座った時、プー丸の定位置は健斗の右横だ。

そこで、プー丸は寝たり、前足をなめたり、

ピンク色のロープをかじったり自由に過ごしている。

いつものプー丸の行動にやすらぎを感じながら、

気の進まないスマホのメッセージを確認した。


『ただいま。

今日の水族館楽しかったね。

健斗も家についた?』


『何かあった?』


『もー健斗に会いたいよー。』


健斗の疲労は、プー丸のおかげで多少軽くなったが陽菜のメッセージを読んで、

帰宅時の状態に戻された。

無意識にプー丸の上に置いた右手から伝わるプー丸の熱と息遣いが健斗に癒しを与え、

健斗に返信をする意欲を与えた。


「はぁ…」

『さっき俺も帰ったよ。

犬の世話をしてて、返事遅くなってごめん。

水族館、楽しかったね。』


ポロン。

『健斗も私に会いたいって思う?』


陽菜のメッセージは、

健斗の帰ったことや犬のことにも触れず、

自分の会いたいという気持ちを共感してほしいという内容だった。


『思ってるよ。

今日は仕事があって、ごめん。』


全く仕事をしていていないが、

陽菜についた嘘を装うことくらい容易く、

罪悪感も抱いてなかった。


ポロン。

『ううん、いいよ。

仕事だから、仕方ないよね。

がんばってね!』


『ありがとう。』


ポロン ポロン。

スマホの着信音に気づいた健斗。

ソファーの上で知らぬ間に寝落ちしていた。

スマホ画面で時間を確認する。

23:23。


体が重く動くのも億劫で寝た状態で念のためメッセージを確認した。


『健斗、仕事進んでる?』


『そろそろ終わりそう?

私はお風呂でたよー。』



『眠いよぉ』


再び陽菜の一人トーク。


『ごめん、仕事に集中してて、返事できなかった』


ポロン。

『うん、返事ないから気になって』


陽菜とのやり取りを放置したかったが、

健斗は体を起こし返信することにした。


『俺はもう少し仕事するから、

陽菜は寝てていいよ』


ポロン。

『前から気になってたんだけど、

健斗にとって私ってどんな存在?』


ポロン。

『私のことどう思ってる?健斗の気持ちがわからない。』


「はー。」

陽菜からのメッセージを読み、無意識にため息がもれ、

健斗は返信したのを少し後悔した。


『大切な存在だと思ってるよ』


ポロン。

『久しぶりに会えたのに仕事で帰っちゃうし、

帰ってから返事くれないし、

私は健斗にとってその程度の存在かなって不安になってちゃって。

もう好きじゃないのかもって。』


『不安にさせてごめん。

陽菜のこと大切だと思ってるし、

陽菜への気持ちも変わってない。』


ポロン。

『うん、わかった。

健斗のこと信じるよ。

変なこと聞いてごめんね』


健斗はこの内容への返信をやめ、

ゲージの中のブランケットの上で横たわるプー丸を見た。


「プー丸ー、お前は俺がお前を大切に思ってること、

言わなくても気づいてるか?」


「お前も俺が好きだって言わないと不安か?」


プー丸は返事するわけもなく、

ただ健斗を見て、健斗の右横の定位置に移動した。

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