第39話 自分の中から押し出したい卓

卓の視線がパソコン画面から健斗へ移りそうになった瞬間、

健斗はその視線に気づき、

瞬時に視線を画面に戻し平然を装った。


卓のデザイン・表情に視線と心を奪われた瞬間を否定しつつも

動揺を卓に感づかれるのではないかと緊張が走った。


「な、シノ。」


気づいた時卓が健斗に声をかけていた。


「ん?!あ、ああ。」


「これ、もういいか?」

卓はパソコンを指さしながら片づけていいか健斗に確認した。


「あ、ごめん。うん、ありがとう。」


卓が棚にパソコンを片づけ背中を向けた瞬間、

健斗は大きく静かに息を吐いた。


「立ったついでにお酒と食べ物取ってくるけど、何がいい?」


「あ、チューハイ飲みたい。」


「OK」


卓がキッチンにいる間健斗の視線は卓を追っていた。

高校時代に健斗に思いを寄せ抱き着いた、

かっこよくて優しい、

ゲイ、

何十年も知っていた卓がなぜか遠いような知らないような存在に感じ、

もっと知りたいと健斗の頭の中はいろいろな卓を思い描いた。


「ん?」

不意に卓が健斗を見た瞬間、2人の視線があった。


「あ、手際いいよなー。」

健斗は適当にごまかした。


「一人暮らし長いからな。お前もおんなじようなもんだろ?」


「まぁ…俺、あんま料理好きじゃないから、外のことが多いかも。」


「そっか。好きじゃないとなかなかやる気でないよなー。」


健斗は冷静さを取り戻し、

自分が卓を気にしている思考を頭から排除しようとした。


「なー、卓。俺、佐藤を誘ってみようと思う。」

健斗は特に卓に言う必要のないことをわざわざ言葉にした。


「なんだよ、急に。」

卓は作業しながら下に向けた顔を上げず笑いながら言った。


「え、何となく。事前報告的な…?」


「そんなものはしなくていいよ。好きにしろ。」


「そーんな冷たい言い方しなくてもいいじゃーん。

俺が佐藤とうまくいったら付き合うかもしないし~」

健斗が拗ねたふりをして、大人げなくブーブーと小言を言った。


健斗の小言に返事をせず、

卓がキッチンからお酒と食べ物を乗せたプレートを持って戻ってきた。

静かに手の物をテーブルに置きながら、健斗を見て卓が返事をした。


「俺はお前と佳代の保護者じゃない。

俺が誰かを誘うと話しても同じ反応するだろ?

俺が誰と付き合っても、お前は何も気にしないだろ?

それと一緒だ。

佳代を誘うと決めたなら、グズグズしてないで行動しろよ。」


普段見せない卓のきつい表現と本気の顔に

健斗はなぜか刺さるものを感じた。


「あ…あぁ。」

思わず、卓の言うことを認めてしまった。

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