最後に横にいる人は
Maddam
第1話 答えが言葉にならない
「篠田君、ここまで来てもらって、ごめんね。
これ…よかったら…受け取ってください。」
か細い声で一言言って、
色白で、黒髪を一つに後ろで結んだ女子が
ピンク色のリボンの付いた小さな箱を俺に差し出している。
今日はバレンタインだけど
わざわざ教室から体育館の渡り廊下裏まで、
呼び出して渡す箱。
マジなやつか…?
箱にお菓子屋のマークみたいなのがあるから既製品のようだ。
既製品であることが救いだと思ってしまう。
手作りはなんとなく重みを感じて、気が引ける。
この女子、クラスメートでも普段話したこともないレベル。
下の名前もわからないくらいの…。
「受け取っても…。」
人気のある男ではないけど、
過去にもバレンタインにチョコとかもらった経験がある。
でも、もっと気軽な…ノリに近い感じの物だった。
「え…あの…彼女とか…いる?」
「いないけど。」
まさか、告るのか?
そもそもこんな漫画みたいな古典的な告白のやり方って。
この行動力は、すごすぎる。
この行動にめまいが起きそうだ。
「あの…。
彼女になりたいとかそういうのじゃないけど、
もっと仲良くしてほしいっていうか…。」
「はぁ…。」
はぁじゃなくて、もっと気のきく返事はできんのか?
「えと…。
篠田君のこともっと知りたいっていうか。」
どうしよう、返事の仕方がわからない。
「えと…。
私、ずっと篠田君のことが気になってて…。」
今にも首を絞められて窒息しそうな
震えた声で話すクラスメートを前に、
更に返事の仕方がわからなくなった。
「…よくわからなくなってきちゃったけど、
篠田君ともっと仲良くなりたくて、
これ、受け取ってください。」
持っていた箱の指に力が入ったのか、
緊張が走っているのか、
クラスメートの手が少し震えだした。
クラスメートの再度の「受け取ってください」
という言葉の重みに動揺が生じた。
俺以上に緊張して勇気を振り絞って込めた言葉と行動に答えられない。
気持ちは決まっているけど、
断り方がわからないから言葉にならない。
俺は、この子に全く興味がない。
そして、最初からこの箱を受け取る気がない。
でも、それをストレートに伝えたら傷つけるかもしれない。
逆に受け取って、ぬか喜びさせることも気が引ける。
どうするべきか。
どうしたいいのか。
わからない。
今更、気づく。
そもそも、
声をかけられたときに
ここに来る事を断るべきだったんだ。
確かにこのクラスメートがしようとしていたことと、
俺の予測が当たっているのか試したいという気持ちもあった。
でも、思いに応じることはできず、
少し考えればこの気まずい状況になる可能性は予測できた。
回避はできたはずだ。
答えが言葉にならない。
のどが詰まって息苦しい。
2月の外、
寒いのに嫌な汗が額に出てきた。
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