第2話 笑う以外の方法が…?

く、苦しい!!!


息苦しさを感じ、健斗が目を覚ました。

健斗の胸の上には飼い犬のプー丸が乗っていた。


高校のバレンタインの夢は懐かしさより、

重たさ・焦り・息苦しさを感じる思い出の夢で、

健斗の気分はどんよりだった。


「プー丸、おなか空いた?

重いからどいてくれ」


プー丸は、プードルとマルチーズのミックスで4Kg弱で大して重くない。

182㎝の健斗にとってプー丸は足元をちょろちょろして、

踏んでしまいそうなくらい小さい。

そんな健斗にとって感じた重さは、

プー丸の重さではなく

夢の重さと苦しさとがリンクしていたのかもしれない。


プー丸の朝食も健斗の朝食も毎日同じ内容。


プー丸はドッグフード、健斗はパンとコーヒー。

プー丸のドッグフードは人でも食べられるレベル(ヒューマングレード)で

グレインフリーとこだわるが、

健斗自身のコーヒーと食パンにこだわりはなく、スーパーで買える代物だ。


プー丸にごはんをあげて、自身の朝食を準備する間、

健斗は夢の続きの世界に落ちた。


言葉にできない答え、

俺、どうしたっけ…?


ニコッ。

「はは。」


言葉のみつからない答えで

笑ったっけ、俺。


この笑いは、

答えのない表現と、

自分の軽率な行動の情けなさが出た表現だった。

笑う以外に何ができた?


「え…?」


「あ、ごめん。つい。」


“つい”って言った後に、

しまったと気づいた時には遅かった。


泣いちゃったもんな、あの子。


そのあと走り去って、

次の日からしばらく

敵対心丸出しのクラスメートの女子たちの視線が怖かったな。

佐藤佳代以外は。

あいつは友達の鳥居卓とりいすぐるの彼女だったから、

俺と仲良くして当然か。


卓…懐かしいな。

クラスメートが走り去ってから、

教室に戻った時はちょうど卓だけ残ってて…

どうしたっけ?

うーん…思い出せん。


卓は、不愛想な俺にも仲良くしてくれて、

なんとなく不思議なやつだったな。


チン

食パンが焼け、健斗は現実の世界に戻ってきた。


8時15分…


彼女の陽菜ひなとの待ち合わせの10時まで時間があり、

健斗はプー丸の散歩、掃除、洗濯を手際よくこなした。

一人暮らしを約16年続けている健斗にとって、

これくらいのことは1時間で十分だ。

家事が終わり出発まで20分余った。

いつもならテレビやネットを見る時間にあてるが、

約2週間ぶりに会う陽菜に少しワクワクしている健斗は、

プー丸と遊ぶことにした。



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