第8話 指の向かう先

峰と別れ、ランチミーティングを済ませて営業企画書を作成し、

残業が嫌いな健斗は定時で退社した。


料理をする気になれず、

帰宅途中のファミレスで夕食を済ませることにした。

プー丸の夕食は万一の残業や急用のために毎日自動餌やり機を使っており、

帰宅時間を気にする必要はない。

ファミレスで料理が来る間、

今後のスケジュールを確認しようと手帳を鞄から出すと、

名刺の角が少し手帳からはみ出していた。

それを見た瞬間、峰との会話後は仕事に集中してしまい、

佐藤への連絡を忘れていたことを思い出した。


とりあえず、

連絡しようとショートメールを送信した。


『先日は声をかけてくれてありがとう。

連絡遅くなってごめん。篠田。』


ポロン。

ドリアを口に含みながらスマホを確認した。


『お疲れさまー。

今朝、返信がなかったから心配したよ。

何かあった?』

陽菜からのメッセージだった。


無意識にスマホが鳴った瞬間ドキッとし、

メッセージを見た時がっかりしたのを健斗は感じていた。

よくよく考えれば、佐藤にはショートメールを使用しており、

陽菜とは着信音もアイコンも違うのだから内容を確認する前に気づくはずだった。

それほどに、佐藤からの返事に期待を寄せているのかと、

健斗は自分の気持ちに戸惑った。


そして、健斗は朝のメッセージを見てそのままスルーしたことを思い出した。


『ごめん、ばたついてて。』


『そっか。明日、何する?』


『何しようね、先週末言ってた映画は?

見たいのあった?』


『うーん、結局特に見たいのなかった。』


『そっか、残念。

アジサイでも見に行く?もう見ごろ過ぎたかな…』


『うーん、他のがいい』


『じゃ、海岸沿いまで行って、

海産物でも食べに行く?』


ポキポキ ポロン

ショートメール受信音が鳴った直後、陽菜と思われる受診音も鳴った。

健斗の右親指は咄嗟にショートメールのアイコンを押しそうになったが、

もしこのショートメールが佐藤だったとして、

佐藤のレスポンスが悪かったらと思い一瞬ためらった。

左手に持っているスプーンを置いて、

右手のスマホを左手に変え、

健斗の左親指はショートメールのアイコンを押した。


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