第7話 峰に転がされる

すぐに峰の視線は健斗に戻り、

「僕のことじゃなくてー、健斗君のことが聞きたいの。」と言いニタリと笑った。


「はい、うざい。」

健斗はこの峰のニタリとする顔が何かを企んでいるときの顔と知っている。


「もー怖いんだから。で、なんでツンツンしてた?」


健斗は峰の行動に関心をした。

峰は人の行動や内面などを見抜く能力にたけており、

相手や状況によって態度を変えてうまく他人の行動を誘導できる。

今回も健斗が名刺を突く姿を見て一瞬で何かあることを見抜き、

単なる昼食かブレイクタイムに誘ったように装って

健斗をこの場所まで移動させてきた。

その手腕を活かして38歳の若さで部長に上り詰めた。


「別に峰に関係ないし、どうでもいいじゃん。」


「どうでもよくない。

営業部のエースが名刺の女性に悩まされ、仕事に集中できないなら、

人事部としては見過ごせない。」


「ふ、意味わかんないから。」


「意味わかんなくない。

営業部が稼いでくるお金は会社の利益に大きく影響するから、

重要だって言ってんの。その営業部のエースが心配ごと抱えて、

仕事に支障が出てるならメンタルヘル…」


峰の回りくどくネチっと口調にイラついた。

健斗は、峰がこれっぽっちも健斗や会社を心配しておらず、

単に峰のもて遊び相手になっており、

すでにこの会話が峰のコントロールの手中にあることは容易に気づいた。

峰相手に口では敵わないし話さないと解放されないと判断し、

健斗は峰に4日前の朝に再会した佐藤とのやり取りを話した。


「運命の再会ってやつかしら。うんうん。」


「ほら、話すの間違った。」

健斗は、手にあるコーヒーの紙カップを強めにテーブルに置いた。


「怒らないで。ごめんごめん。

ま、出会い方はどうでもいいとして、

僕が思うに答えを出すのは簡単。」


「なんで?」


「例えば、ほしいレンズを手にして買うか買わないか迷ってるとき、

その理由は?」


健斗はレンズを左手持った状態をイメージして手を見つめた。

「うーん、俺は買って後悔しないか、不要か必要かかな?」


「それで、何を基準に決断する?」


「結局は…ほしいと思うかどうかかな。」

と言い、健斗は左手を握りしめ峰の顔を見た。


峰はニタリと声を出さずに笑っていた。


この時、健斗はしまったと気づいたが遅かった。

峰は健斗が名刺を突いていた姿を見た時から、

健斗の気持ちと結論を察していたのだ。

健斗に経緯を話させ、健斗の決断を導き、健斗が結局その女性(佐藤)に連絡をとる行動の過程を楽しんでいた。

そして、健斗はこの低レベルと思える決断と行動をできず

無駄な時間を過ごしていた自分が恥ずかしかった。


「本当、お前って最悪。」


峰は再びニタリと笑った。

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