第6話 結局4日目

“代表取締役社長 佐藤佳代”


高校卒業後に会った佐藤が社長という肩書になっていることを

名刺で知った健斗は関心と尊敬を抱き、

脳裏に卓との高校時代の思い出がちらついた。

何かを選択したり決めるときは決断も行動も早い健斗だが、

会社のデスクで座りながら佐藤の名刺の角をツンツンと突いた。

佐藤に電話かメールかしたい気持ちと、

照れくささと会いたいと思う気持ち、

名刺を渡したのは単なる社交辞令かもという憶測が入り乱れ、

4日たった今も何もできずにいた。


「何してんの?」


急に横から不思議そうな顔をして声をかけてきたのは、

健斗と同期入社の人事部 峰京太郎だった。

峰は、端整な顔立ちをしており面倒見がよく、

冷静でやさしく社内で人気のある男だ。

3年前に離婚し、社内の女子にアプローチされている話は何回か耳にしたが、

絶対に社内の人と関係をもつことはなかった。


「ん?あー、名刺をね。」


「見ればわかるよ。名刺見つめて突いてた。」


「いや、見つめては…」


「見つめてたぞ。僕は少し前か健斗を見つめてたからわかる。」


「気持ち悪いから、見つめないでくれ。」


「その名刺もきっとそう思ってる。」


「ふっ。そうだな。で、なんか用か?」


「コーヒー飲みにいかない?昼食でもいいけど。」


「あー、20分後にランチミーテイングあるから、カフェルームでもいいか?」


「十分。」


カフェルームに近づくと甲高い声が聞こえてきた。

何を話しているのかはわからないが、

若くて張りのある元気な声。

そんな声を耳にし健斗は少しいらっとし、

カフェルームに入るのに気が引けたが、

峰が躊躇なく入ったため、それに続いた。


入ってすぐその甲高い声の主がわかった。

峰の部署の若い女子社員だ。

その社員は峰に馴れ馴れしく話しかけ、

若さの強みや男は若い女子が好きかについて質問している。

健斗は全く興味がなく、話半分で聞いていた。

急に峰がその社員の持論について健斗に話を振ったが、

健斗は不快さを露わに返答した。

その社員はそんな健斗の態度はお構いないしに質問を重ね、

健斗はただこの会話を終わらせたいとしか考えていなかった。

峰が手短にその会話を終了させた後、

2人はフリーのコーヒーを注いで空いている椅子に座った。


「お前、あの子をめんどくさく感じて俺にふるのやめてくんない?」


「ん?僕の部下を悪く言わないでほしい。」


「はいはい、いつもの“いい奴”ね。」


「ごめん、ごめん、ちょっとめんどくさいって感じたよ。」


「ま、いいわ。で、なんだったの?」


「え、何が?」


「は?お前がコーヒー誘ったんじゃん。」


「あぁ~。」

峰が誘った理由を思い出すそぶりをするため健斗から目をそらした際、

峰の目には何かが留まったようでそのままその対象物を目で追い、

あまり見せないフッと優しい笑顔を作った。

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