第16話 卓、佐藤、自分

19:15 健斗が約束の焼き肉屋に着いた。

焼き肉屋が健斗の家から、

徒歩10分ほどの距離と近かったことから、

油断してプー丸と寝てしまい、逆に遅刻した。

事前にトリイで予約していると連絡をもらっていたため、

直接店に入った。


「あの、19時予約のトリイです」


「あーはい、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」


すぐに個室に案内された。


個室のふすまを店員が開けると、

すでに卓と佐藤がいた。

2人は並んで座っており、健斗の座る位置に選択肢はなかった。


「おー、シノー久しぶりー。」

まずは、卓が声をかけ、佐藤もあとに続いた。

「久しぶりー。」

2人とも手を振り笑顔で迎えてくれた。


「卓、佐藤、久しぶり!遅れてごめん!」


「うん。いいよー、うちらもちょうど今来たところ。」


「んじゃ、まず飲み物頼もうか?」と、卓が声かけた。

「佳代は、ビールでいい?健斗はどうする?」

佐藤は頷いた。


「あ…、俺もビールで。」


案内した店員にそのままドリンクオーダーする。

「んじゃ、ビール3つください。料理はまた後でオーダーします。」


卓と佐藤は馴染みある雰囲気で、

健斗は気まずいような入りにくい感じがした。


「佳代に聞いたけど、偶然電車で会ったらしいね。」


「そう、全然佐藤に気づかなくって、驚いたよ。

よく、佐藤は気づいたね。」


「えー、だって、シノンって左目の下に1つ、首に3つほくろあるじゃん。

それが気になって。顔も似てるし、そうかなって。」


「あ~、なるほどね~」

と言いながら、卓は健斗のほくろの位置と数を確認するように見た。


健斗は恥ずかしくなって、左手で首を覆いながら目をそらした。


「いや、照れてる。」と佐藤が健斗を茶化した。


「おまたせしました、ビール3つです。

料理のご注文はお決まりですか?」


誰一人として、メニューを見ていなかった…。

が、卓がスムーズにオーダーしてくれた。


「適当に頼んだけど、ほかにいるもんあったら追加して。」


「あ、卓、ありがとう。」


「さすがすーちゃん。ここお気にだもんね。

いろんなお肉が食べらるから。」


佐藤のこの言葉を聞いて、

健斗は思い出した。


「そう、その焼き肉屋なのに“いろんなお肉が食べられる”ってどういう意味?

焼き肉屋ならいろんなお肉食べれて普通じゃない?」


「あー、ここね、お肉の種類が半端ないの。

わけわかんないくらい。メニュー見るとびっくりするよ。」


「そう、ここは品ぞろえが半端ないから、

いろいろ味わえていいぞ。

ま、佳代はロースと、ホタテと、ビビンバあれば十分だもんな。」


「はいはい、そうですよー。

ほんと、すーちゃんって意地悪。」


「相変わらず、お前ら仲いいな。」

2人のやり取りをみて、

居心地の悪さより懐かしさを感じた。


でも、この2人は大学入ってしばらくしてから、別れたはず。

聞いてよいか一瞬迷ったが、

聞かずにはいれなかった。


「もしかして、ヨリが戻った?」


2人同時の反応は、

「え?」だった。

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