第15話 空っぽの時間とプー丸

いつもの週末のようにプー丸に起こされ、

健斗は重たい目を開ける。

予定のない日のアラームはプー丸だ。

健斗はふと、隣の空間を見て、

昨日のことがなければ陽菜がいたかもしれないと思った。

そして、

陽菜との恋愛が終わった現実を再認識した。


お腹が空いたプー丸は

健斗にそんなしんみりとした時間を与えず、

健斗の頭を掘り掘りしだした。

髪がグチャグチャになり、

プー丸の爪が少し当たって頭皮を刺激する。


「あーもー、わかった。

はげたらどーする?やめろ。」


健斗はプー丸を抱きかかえ、

寝室からリビングへ移動した。


「はい、お待たせ」と

健斗はプー丸にご飯をあげた。

自分の朝食の準備をする気になれない健斗は、

カーテンも開けずソファーに横たわって、

ご飯を食べるプー丸を眺めた。


「お前はいいよなー」


「ご飯食べて、寝て、チッチしてプップして、

掃除も仕事もしなくていい。

気楽だなー。」


プー丸は健斗の声を完全無視して、

朝食を食べ終えた。


プー丸はゲポッとゲップをして、

ソファーに飛び乗り健斗のお腹前の空間に入って、

体をくっつけた。

健斗はそんな自由なプー丸が可愛くて仕方がない。


「よしよし、

かわいいプー丸子ちゃん」

と、言いながらお腹をさすった。


陽菜と過ごす予定だったこの時間、

何の予定もなくただボーッとしている。

昨日の朝には想像もしてなかった。

健斗は一昨日の夜、

今日の19時から卓と佐藤とのご飯に行きたくて、

どうやって陽菜をタイミングよく帰すか、

素直に事情を話すか、

それとも、

陽菜と過ごすべきか迷った。

結局、

陽菜は健斗から去りそんなことを考える必要がなかった。


卓と佐藤の待ち合わせ時間まで

まだ13時間もある。

健斗は予定がなく暇だ。

暇な健斗を相手にするほどプー丸は暇ではない。

彼女は、

健斗の元から離れ、

室内パトロールしたり、

ゲージからぬいぐるみを出したり、

おもちゃを噛んだりと忙しく動いている。

せっせと動くプー丸を目だけで健斗は追った。


有り余った時間は、

陽菜との思い出と

陽菜がいない喪失感が頭をよぎらせ、

健斗の気分を更に落とした。

モヤモヤしている健斗の鼻をある臭いが刺激した。


「おい、どーしてお前のプップはこんなに臭いんだ。

自分でトイレでしろよ。」


健斗は人間用トイレで排泄のできないプー丸に完全な八つ当たりをしたが、

プー丸の排泄物の臭いのおかげで、

健斗はソファーの沼から這い出ることができた。


排泄物を捨てたついでにトイレ掃除を済ませ、

カーテンを開けてそのまま自分とプー丸の部屋、

風呂場などの掃除を徹底的にすることにした。

健斗が動くとプー丸も刺激され、

健斗の足元や後ろをうろちょろし、

健斗が片付けたおもちゃやぬいぐるみをすぐ散らかしたり、

尻尾を振って動いていた。

ただ、

掃除機をかける時だけは、

自分のゲージの中のブランケットの中に隠れた。

隠れていても

プー丸の小さな黒い鼻はブランケット の端から出ている。

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