第14話 いなくなる存在と満たす存在
ガチャ
「ただいまー、
プー丸ー、お利口してたかー?」
健斗はリビングに鞄とカメラバッグを床に置いてから、
プー丸のゲージを開けて、
ゲージから出てきたプー丸といつものスキンシップを行った。
その最中急にプー丸は自動餌やり械の作動音と餌の排出音に反応し、
健斗をそっちのけで餌を食べにゲージに戻った。
「俺より餌か~。だよな〜。」
健斗は、テレビをつけながら
鞄からスマホを出してソファーに座った。
プー丸はごはんを食べ終え、
すぐに健斗の右横に来てくつろいだ。
スマホは4件の受信メッセージと
1件の不在着信があった。
マナーモードにしていた健斗はスマホの着信も受信も
気づかなかった。
しかし、陽菜のことを気にしていれば、
マナーモードであっても、
カフェに入る前後、カフェで過ごしている時など
いつでもスマホを自ら確認できたはず。
帰宅前にスマホを確認しなかったのは、
嫌な気分の状態で陽菜と冷静に向き合える自信がなかったからだった。
着信元は陽菜だった。
メッセ―ジ4件もすべて陽菜だった。
『今日はごめんね』
『もううちらダメなのかな?
健斗はもう私のこと好きじゃない?
怒ってる?』
『電話に出るのもイヤ?』
『わかった。
もう終わりにしたいってことだよね。
さようなら』
メッセージを読み終え健斗は右横のプー丸を見た。
プー丸も健斗を見ていた。
「プー丸ー、
2時間足らずの間で、
7か月付き合った陽菜に振られたぞ。」
プー丸は若干首を右に傾けて左耳を少し上げ、
健斗は話続けた。
「前によく来てた陽菜だよ。
あんまお前のこと好きっぽくなかったけどな。
お前もあんまなついてなかったけど、覚えてる?
何をどうしてほしかったんだろうな…。
もっと早くメッセージ見てたら、関係は続いてたか?
イヤな思いをするだけじゃなくて?」
プー丸は鼻を鳴らして、
前を向き、すぐに左前足を舐め始めた。
「興味なしか。」
健斗はテレビの報道番組の音を煩わしく感じ、電源を切った。
聞こえるのは、
プー丸が自身の前足を舐める音だけだった。
健斗はプー丸を抱き上げて前足を左肩に乗せ左腕でプー丸の体を支えてから、
プー丸の背中をさすった。
小さなプー丸が一段と小さく感じ
健斗はプー丸を守ってやろうと思ったが、
むしろプー丸の存在と温もりが健斗の空虚感を満たしていた。
しばらくして、
プー丸の体を支えている左手に重みを感じはじめ、
疲れた健斗はプー丸を右横に下した。
空いた左手でスマホを持ち、
陽菜にメッセージを送った。
『わかった。
陽菜の求める彼氏になれなくてごめん。』
何の釈明も質問もなく、
この2文だけだった。
健斗の右手は無意識にプー丸の体の上にあった。
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