第32話 抑揚する心

感情の高ぶりが落ち着き始めた2人。

佐藤は梅酒を飲みながら海藻サラダと焼き鳥をバクバクと食べ、

健斗はビールを飲みながらホッケの開きを突いた。


「ところで、佐藤さん。」

健斗が真剣な顔で佐藤を呼んだ。


サラダをつまんだ箸を握ったまま、

佐藤が健斗を見た。

「何?さんって…気持ち悪い。」


「さっき、クラスメートが卓が俺を見ているとか、

好きみたいなこと言った?」


「え??」

佐藤の表情が固まった。


「言ったっけ?」

ごまかそうとするが、余計に怪しさが増した。


「言ってた。」


佐藤は下唇を甘噛みし気まずい表情をした。

「すーちゃんにはぜっっっったい秘密だからね!!!!

言わないで…絶交されちゃう…」


「絶交って…化石みたいな言葉出したな、おい。」

論点がずれたが絶交という言葉が面白かった健斗は声を出して笑った。


「笑うなー!

化石でも、絶交は絶交だもん。」


「まぁ…そうだとしても。

で、言わないけど、どういうこと?」


「うーん…

すーちゃんのことだから私からは話せない。

ごめん。」


健斗は卓が高校時代に自分のことを好いていたと

耳にしたときは思考回路が止まった。

気にはなるが、

佐藤の絶交の言葉を聞いた時のおもしろさで

卓が高校の時に健斗が好きだったかの事実の探求心は薄れ、

どうでもよい感覚になっていた。


「いいよ、ごめん。

この話はやめよ。」


「うん、ありがとう。」


「それぞれいろんな過去があるな。」


「うん…。」


健斗がビールを飲んだ時、

佐藤がトイレに行くため立った。

掘りごたつから足を出し、

健斗側にある個室の襖へ行こうとした時、

足が座布団か鞄の紐に引っ掛かった。


「おぉぉおっと。」

視覚の中の佐藤が急に倒れこむのに反応し、

健斗は座ったままとっさに佐藤の体を支えた。

佐藤はバランスを崩しながらも、

健斗の左肩に手を付くことで転ぶのを阻止できた。


「あはは、ごめーん。

危なかったね。」

ケラケラと笑う佐藤と、

心臓がバクつく健斗。

すぐに佐藤を支えた手を放した。

佐藤は健斗の肩に付いた手を放し、

そのまま健斗の横に座った。


「気をつけろよ。

なんで座った?」


「えへへ、ね、気を付けないとね。

びっくりしたから、座ってみた。」


「こっちがびっくりしたし。」


「ごめん、ごめん。あはは。」

謝っているのに明るく笑う佐藤の目はきらきらしていた。

佐藤の顔が健斗の近くにあり、

健斗のドキドキは余計収まらなかった。


「早くトイレに行ってこい。」

冷静さをアピールするため、健斗は素っ気なく言った。


「はいっ!」

と言いながら、右手を額に当てて敬礼するポーズをとながら

顔を右に少し傾けてから、

スクッと立ち佐藤は襖を開けトイレへ向かった。


「やっば…」と言葉を漏らし、

ジョッキに半分残ったビールを一気に飲み干した。

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