第31話 過去の過ち

「お前、すごいな。

高校生で好きな人を守りたいとか…」


「そう、私はすごいのだ!」

と、言いながら佐藤は両手を両脇の腰に当てて胸を張った。

同じ年の佐藤のそんな言動がいちいちかわいいと思う健斗。


佐藤は腰に当てた手をすぐに下ろした。

「ってわけでもないよ。

ちょうど私がすーちゃんのゲイに気付いたころ、

他のクラスメートの女子も感づいてて…」


佐藤が急に暗い表情になった。


「すーちゃんのこと

“篠田君をいつも見てるよねー、絶対ゲイだよね。

イケメンなのに男が好きってありえない。気持ち悪い。”

って言ってたの。」


急に自分の苗字が出て驚いた健斗は一点を見つめたが、

佐藤は話しを続けた。


「思いっきりの偏見でしょ?」


佐藤が同意を求め健斗の目を見た。


「え…?あ、うん。」


「許せなかった。

イケメンの恋愛対象は女とか、

ゲイは気持ち悪いとか、決めつけてた。

すーちゃんの選択はすーちゃんの自由で権利なのに。」


健斗は頷いた。


「だから、

自分にできることを提案した。

高校生だった自分が考えられる策。」


その策は、功を奏していた。

高校時代の佐藤はかわいく活動的で、

好きな男子が結構いた。

卓も容姿端麗で好きな女子が結構いた。

その2人のカップル。

誰も疑わなかったし、

邪魔する者もいなかった。

なにより、

卓がゲイでいじめとかの標的になることもなかった。


「佐藤、お前はやっぱすごいな。」


「ううん、すごくないよ。

30過ぎて気づいた。

私は単にすーちゃんに逃げる経路を与えただけ。

クラスメイトの偏見に腹が立って、

守りたいって言って、解決できてなかった。

ただ、周囲を欺いて黙らせただけだった。」


「確かに。」


「当時はLGBTって言葉はなかったし、

性的マイノリティーに対しての差別や偏見は今以上にあった。

選択の自由も権利もなかった。

男がもし男が好きだったら、

女が女を好きだったら好奇の目を向けられる時代。

本当はこのことが問題だったんだよ。

だけど、

この問題に当時は気づかなくて、根本を解決することができなかった。

私はすーちゃんの自由な恋愛をする自由とチャンスを奪った。」


健斗は黙った。


「一番、罪のある人間は陰口や偏見を言ったクラスメイトじゃなく、

私だったと今でも思ってる。」


「そんなことは…ない。

卓はそんな風に思ってない。」


「すーちゃんに謝った時、すーちゃんもそんなことないって言った。

でも、違う気がする。」


「卓は、この前ゲイであることを俺に話したとき、

佐藤は恩人だって言ってた。

佐藤がいたからトラブルなく高校生活が送れたし、

感謝してると思う。」


「すーちゃん優しいから。」


「うん、卓の優しさに甘んじればいいんじゃない?

佐藤の行動の結果、卓は安心して高校生ができたわけで、

高校時代の自分を責める必要ない。

そもそも、

佐藤の提案が嫌だったら卓が行動を起こすべきだったわけだから。」


「うん…。」

佐藤は2回頷いた。

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